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2008年7月17日 [マザーランド]

今日は、シックス・アングルズ第11号から連載記事としてスタートさせる「マザーランド改造計画」について、少し書いてみます。

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このゲーム「ウォー・フォー・ザ・マザーランド 第2版」(以下マザーランドと略)は、第9号の付録として2004年、つまり今から4年前に出版したものです(初版は1994年発売)。同号の本誌に収録したデザイナーズ・ノートにも書きました通り、これを作った当時はゲームの内容にとても満足していました。しかし、いろいろな人からプレイの感想を聞き、自分でも何度かプレイする中で、ゲームの内容に違和感を覚える部分が感じられるようになりました。また、私のゲームデザイナーとしてのデザイン手法や題材の捉え方、歴史的事実をゲームのルールに置き換える上での処理方法に関しても、当時と現在では大きく変化している部分があり、現在のデザインスタイルで見ると不満に思う点がいくつか出てきました。

これを「無責任」と取るか、それとも「この4年間で少しだけ成長した」と取るかの判断は、ユーザーの皆様にお任せしますが、しかし作った本人が「これはまだ改良の余地あり」と感じているゲームを店頭で売り続けている以上、既に買って下さったお客さんや、これから買って下さるお客さんへの責任として、より良い製品(ゲーム)として遊んでいただく、または支払って下さったお金の対価としての「満足度」を上げるという努力は、今後も続けなくてはいけないことだと考えています。

こうした理由から、「マザーランド」のルールを根本から洗い直し、なるべく少ない修正で最大限の効果を得られるような形で、新版のルールを作って「PDF形式で無料配布する」という計画を、本格的に始めようと思いました。完成がいつになるかは、今の段階では何とも言えませんが、やるからには中途半端なものではなく、当分は「ルール修正をしなくていい」という状態まで持っていきたいので、慎重にテストしながら、個別のルール修正案を評価していきたいと思います。

最新作の「モスクワ攻防戦」をデザインするに当たっては、前作「パウルス第6軍」と同様、デザインスタイルとしての「鈴木銀一郎イズム」を念頭に置きながら、ゲーム全体の整合性をとるよう注意を払いました。この「鈴木銀一郎イズム」については、第10号の本誌収録記事で詳しく説明しましたが、簡潔に要約すると「プレイヤーが後世の歴史研究家の視点ではなく、当時の軍事指導者の視点で、目の前の作戦や戦争を捉えられるような処理方法」ということになります。「パウルス第6軍」をデザインした時には、かなり明白に「銀一郎イズム」の価値を理解していましたが、「マザーランド」をデザインしていた時期にはまだ、こうした処理方法を理解していませんでした。

その結果として、「マザーランド」をプレイする独ソ両軍のプレイヤーは、「当時の軍事指導者の視点」から見て、おや?と違和感が生じるいくつかの状況に直面することになりました。ゲーム序盤で言えば「ドイツ軍の装甲部隊が、敵領土の奥地に突進した後、機械化移動フェイズで突然バックして、蜘蛛が巣に戻るように退いていく」とか、「ソ連軍プレイヤーは敵の補給ユニットの配置を見て、装甲部隊の最大進出線を見切れるので、心理的に不安を感じることなく、敵進出限界の先に整然と戦線を形成できる」といったことです。

こうした状況については、プレイテストの段階から意見として出ていましたが、当時の私は「後世の歴史研究家としての視点」に立って、そのような問題も許容範囲内と考え、デザイナーズ・ノートにも「後世の歴史研究家としての視点」からの説明を加えておきました。しかし、「当時の軍事指導者の視点」を重視する「鈴木銀一郎イズム」のデザインスタイルで見直すと、これらの問題はゲームの興味を大きく殺ぐ「欠点」以外の何物でもないことは明らかです。

オリジナル版のゲームは、雑誌「歴史群像」に執筆しているライター仲間の何人かも高く評価してくださっており、「後世の歴史研究家としての視点」で作ったゲームとしてはそれなりに上出来だったのかもしれません。しかし、現在の私は、歴史研究家としての仕事は原稿執筆の分野で行い、ゲームデザインに関しては(文字情報ではなかなか表現できない「情報」を伝えられる)「鈴木銀一郎イズム」のスタイルで整合性をとるのがよいだろうと理解しており、今後デザインする新作についても、同様の路線に進むことになると思います。

話が少しそれましたが、上に挙げたような問題点を解決するためには、ゲーム手順に何らかの修正を加えることが必要であろうと考え、現在いくつかの修正案を用意しています。本ブログで「マザーランド愛好家」さまがご提案くださった「ソ連軍の移動フェイズと戦闘フェイズを入れ替え、ドイツ軍機械化移動フェイズをリアクション・フェイズに変えてソ連軍移動フェイズの後に入れる」というのも一案ですが、このご提案の一部を採用させていただいた上で「手順としてはソ連軍の移動フェイズと戦闘フェイズの入れ替えに留め、ドイツ軍機械化移動フェイズに1個ないし2個の補給ユニットを移動可能とする」という別案も、上記した問題を解消するのに有効ではないかと考えています。

石田参謀長の報告では、ソ連軍の「移動フェイズ」と「戦闘フェイズ」の入れ替えは、従来のルールでは一方的に「何もできず盤上の動きを見ているだけだった」ソ連軍プレイヤーにも作戦上の判断を下す余地を広げられるので、良い提案だろうとのことでした。私が目指す目標は、「マザーランド」を両プレイヤーがゲーム序盤から緊迫感を持ってプレイできるゲームにすることですが、ルールの骨格はなるべく保ちつつ、当時の独ソ両軍指導部が感じた不安や葛藤を、シンプルな形でゲームに盛り込めたら、と考えています。

もし、この改造プロジェクトが上手くいったなら、おそらく1941年だけを扱ったフルマップ1枚の「バルバロッサ」シナリオだけでも、両軍が充分に楽しめるゲームになるのではないかと思います。結論を焦らず、地道に作業を進めていきますので、「マザーランド」を既にお持ちの方はぜひ、早まって処分せずに(笑)期待していただけたらと思います。

また、「マザーランド」の内容に関するご不満なども、ぜひメールやコメントでお知らせください。挨拶など抜きに、不満点をただ箇条書きにしたような内容でも結構です。お寄せいただいたご意見は、全て検証作業の参考にさせていただくつもりです。

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コメント 4

マザーランド愛好家

こんにちは。今回の説明を読み、今まで疑問に思っていたことが氷解しました。私の提案は、ただのアイデアですから、一部でも採用していただけたら嬉しいです。機械化移動フェイズの順番をいじる代わりに、ドイツ軍補給ユニットを限定的に移動させられるようにするのは名案かもしれません。私もこの案で少し検証してみます。
by マザーランド愛好家 (2008-07-18 11:59) 

どーちぇ

初期の物も十分好きなゲームです。
ユーザーとしては、改造されたルールも以前のルールも選べる訳で、用はバリアントが増えたような感じで得した気分です。
新しい物を出版するばかりでなく、以前の物の改造やバリアント、シナリオを増やして頂けるのは、本当にありがたいと思いますし、小さい部分ではエコだと思います。
そう言う改造や、バリアント、シナリオ、追加ユニット等を集めたシックスアングルも良いなぁ~
by どーちぇ (2008-07-18 15:30) 

Mas-Yamazaki

マザーランド愛好家さま: コメントありがとうございます。プレイされた方からのご意見は、どんなものであれ参考にさせていただきますので、今後もアイデアをお寄せいただければ幸いです。よろしくお願いします。
by Mas-Yamazaki (2008-07-23 11:36) 

Mas-Yamazaki

どーちぇさま: コメントありがとうございます。ご指摘のとおり、これから製作する「改訂ルール」を公開することによって、現在のルールで遊べなくなるというわけではありません。シミュレーション・ゲームはどんなゲームであれ、プレイヤーに対する物理的・精神的負担を軽減する目的で、何かを再現するために別の何かを犠牲にしているわけで(その犠牲を最低限にしたのがいわゆるモンスター・ゲームでしょうか)、気分に応じて使い分けていただく、というのも良いと思います。

過去に出版したゲームのシナリオやヴァリアントも、同様にゲームの価値を高め、プレイの幅に広がりを持たせるものだと思いますので、積極的に製作して、シックス・アングルズの本誌に掲載したり、あるいはPDF形式で無料公開したり(今野千尋さまが投稿してくださった「戦略級日露戦争」のヴァリアントのように)という形で、プレイヤーの方々に提供したいと思います。「マザーランド」は、1942年の「青作戦」シナリオを第10 号に掲載しましたが、1943年初頭の第三次ハリコフ戦とか、夏のクルスク戦、あるいはそれ以降のドニエプル渡河作戦などのショートシナリオを構想中です。完成はまだ少し先になりますが、ゲームをお持ちの方はぜひこちらも楽しみにしていてください。
by Mas-Yamazaki (2008-07-23 11:45) 

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