2008年8月9日 [モスクワ攻防戦]
シックス・アングルズ第11号「モスクワ攻防戦」の本誌製作作業を連日、夏季オリンピック競技会という新たな誘惑と戦いながら(開会式は結局、誘惑に負けて聖火の点火式まで見てしまいました)、全力で進めているところですが、ゲームのルール内容に関して、8月5日付記事へのコメントの中で非常に良い提案があったので、今日はそれについて少し書くことにします。
「とおりすがり3」さんのご提案された内容は、「ダメージマーカーの閥値をプレーヤーが己の歴史観で選択できるようにする」というもので、ゲームに適度な柔軟性を持たせてプレイの選択の余地を広げるという意味で、非常に効果的なご提案だと思いました。実は私自身も、実際に起こっていない「歴史的可能性」に関するデザイナーとしての最終決定が万人に受け入れられるとは考えておらず、何か選択ルールで対応できないかと考えていたところでした。そして、今朝に上記のご提案を読み、頭の中でバラバラだったアイデアが一気に整理されたような感じになったので、次のような選択ルールを1項目追加して、本誌のページに押し込むことにしました。
13.3 ソ連降伏の不確実性
13.31 標準ルールでは、ソ連降伏という事態が発生する可能性は、歴史性とゲームとしての競技性を考慮した上で、デザイナーの最終判断で決められていますが、両プレイヤーが合意すれば、以下の二通りの方法で、その可能性を修正することもできます。
13.32 もし、両プレイヤーが、標準ルールでプレイした場合における、ソ連降伏の発生する可能性が低すぎる、あるいは高すぎるとの意見で同意された場合、ゲームの準備を行う段階で、特定の数値が記されたソ連軍戦意マーカーを、ゲームから取り除いておくことができます。
13.33 もし、両プレイヤーが、首都モスクワに対するドイツ軍の攻撃が一度も発生していないのに、ソ連降伏という事態が発生するのはおかしいとの意見で同意された場合、「ソ連軍戦意マーカーの数値が15以下であるなら、ソ連軍ダメージマーカーのうちの最低1個がモラル・ダメージマーカーでなければ、ソ連降伏という事態は発生しません」という追加の制限を適用して、プレイしてください。このルールを適用する場合、ソ連軍戦意マーカーの数値が「14」ないし「15」であるなら、ソ連軍ダメージマーカーの数が17個以上になっても、最低1個のモラル・ダメージマーカーが含まれていない限り、ソ連降伏という事態は発生しません。
13.33項は、戦意マーカーの引きが(ドイツ軍にとって)「良かった」場合、ドイツ軍がモスクワを全然攻撃していないのに、ソ連降伏という劇的な実態が発生する可能性が(きわめて少ないながらも)存在し、ソ連降伏を引き起こすには、最低1個のモラル・ダメージマーカーが必要という規定をいれるべきだろうかと、長らく考えていました(ルールをお読みになった方はご存知かと思いますが、モラル・ダメージマーカーはモスクワへの直接攻撃でしか適用されない)。
ちなみに、戦意マーカー12個の平均値は「16.16」で、最低は「14」、最高は「19」です。モスクワの3個守備隊に全く手をつけない場合、ドイツ軍はそれ以外の全ての重要目標へクスを占領して、それでようやく降伏発生条件の「17個」に到達しますが、両プレイヤーの技量が近いと、そのような事態はほぼ起きないと思われるので、ソ連降伏を引き起こすにはやはり、モスクワへの直接攻撃で「モラル・ダメージマーカーを一定量追加する」必要が生じます。
もし、全てのケースに「降伏発生には最低1個のモラル・ダメージマーカーが必要」という規定を適用すると、ソ連側はとにかくモスクワさえ守れば絶対に降伏は起きないという考えを徹底して、モスクワ偏重の「ゲーム的防御」を行う可能性が高いので、それを適度に回避できるうまい適用法はないかと考えていたところでした。この最終案(13.33項)だと、戦意マーカーの数値が低くても、それだけでドイツ軍の有利にはならないはずで、「当時のソ連はそう簡単には降伏しなかったはずだ」との考えをお持ちの方は、上記の選択ルールをお好みで適用されれば、歴史シミュレーションとしての違和感を取り除けるのではないかと思います。非常に的を射た修正のアイデアをご提示くださった「とおりすがり3」さんには、改めてお礼を申し上げます。
「とおりすがり3」さんのご提案された内容は、「ダメージマーカーの閥値をプレーヤーが己の歴史観で選択できるようにする」というもので、ゲームに適度な柔軟性を持たせてプレイの選択の余地を広げるという意味で、非常に効果的なご提案だと思いました。実は私自身も、実際に起こっていない「歴史的可能性」に関するデザイナーとしての最終決定が万人に受け入れられるとは考えておらず、何か選択ルールで対応できないかと考えていたところでした。そして、今朝に上記のご提案を読み、頭の中でバラバラだったアイデアが一気に整理されたような感じになったので、次のような選択ルールを1項目追加して、本誌のページに押し込むことにしました。
13.3 ソ連降伏の不確実性
13.31 標準ルールでは、ソ連降伏という事態が発生する可能性は、歴史性とゲームとしての競技性を考慮した上で、デザイナーの最終判断で決められていますが、両プレイヤーが合意すれば、以下の二通りの方法で、その可能性を修正することもできます。
13.32 もし、両プレイヤーが、標準ルールでプレイした場合における、ソ連降伏の発生する可能性が低すぎる、あるいは高すぎるとの意見で同意された場合、ゲームの準備を行う段階で、特定の数値が記されたソ連軍戦意マーカーを、ゲームから取り除いておくことができます。
13.33 もし、両プレイヤーが、首都モスクワに対するドイツ軍の攻撃が一度も発生していないのに、ソ連降伏という事態が発生するのはおかしいとの意見で同意された場合、「ソ連軍戦意マーカーの数値が15以下であるなら、ソ連軍ダメージマーカーのうちの最低1個がモラル・ダメージマーカーでなければ、ソ連降伏という事態は発生しません」という追加の制限を適用して、プレイしてください。このルールを適用する場合、ソ連軍戦意マーカーの数値が「14」ないし「15」であるなら、ソ連軍ダメージマーカーの数が17個以上になっても、最低1個のモラル・ダメージマーカーが含まれていない限り、ソ連降伏という事態は発生しません。
13.33項は、戦意マーカーの引きが(ドイツ軍にとって)「良かった」場合、ドイツ軍がモスクワを全然攻撃していないのに、ソ連降伏という劇的な実態が発生する可能性が(きわめて少ないながらも)存在し、ソ連降伏を引き起こすには、最低1個のモラル・ダメージマーカーが必要という規定をいれるべきだろうかと、長らく考えていました(ルールをお読みになった方はご存知かと思いますが、モラル・ダメージマーカーはモスクワへの直接攻撃でしか適用されない)。
ちなみに、戦意マーカー12個の平均値は「16.16」で、最低は「14」、最高は「19」です。モスクワの3個守備隊に全く手をつけない場合、ドイツ軍はそれ以外の全ての重要目標へクスを占領して、それでようやく降伏発生条件の「17個」に到達しますが、両プレイヤーの技量が近いと、そのような事態はほぼ起きないと思われるので、ソ連降伏を引き起こすにはやはり、モスクワへの直接攻撃で「モラル・ダメージマーカーを一定量追加する」必要が生じます。
もし、全てのケースに「降伏発生には最低1個のモラル・ダメージマーカーが必要」という規定を適用すると、ソ連側はとにかくモスクワさえ守れば絶対に降伏は起きないという考えを徹底して、モスクワ偏重の「ゲーム的防御」を行う可能性が高いので、それを適度に回避できるうまい適用法はないかと考えていたところでした。この最終案(13.33項)だと、戦意マーカーの数値が低くても、それだけでドイツ軍の有利にはならないはずで、「当時のソ連はそう簡単には降伏しなかったはずだ」との考えをお持ちの方は、上記の選択ルールをお好みで適用されれば、歴史シミュレーションとしての違和感を取り除けるのではないかと思います。非常に的を射た修正のアイデアをご提示くださった「とおりすがり3」さんには、改めてお礼を申し上げます。
2008-08-09 13:28
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コメント(5)
こんにちは。発売前のルール全文公開で、それを読んだユーザーが感想を書き、それを製品に反映して発売するとは、興味深い展開です。軍事的敗北からソ連が崩壊したかどうかはどこまで行っても「想像・推測」でしかない問題なので、その部分にユーザーの好みを反映させられるようにするのは適切なモディファイだと思いました。ちなみに私はモスクワが落ちてもソ連はウラルに下がって抵抗したと思いますが、その前提だと史実のタイフーン作戦は最初から無意味な行為になってしまってゲーム化は不可能ですね(笑)。モスクワをとってもソ連が崩壊しないと最初からわかっていれば、冬用コートも手袋も持たないドイツ軍が消耗の多い冬季攻勢を無理押しでやることはなかったでしょうから。
by 宗佑 (2008-08-10 11:19)
ソ連降伏発生の閾値の話を読んで、シミュレーションとしての閾値も人によってだいぶ違っているのではと思いました。ルールやゲーム盤の発生状況を見て、シミュレーションとしてそれはどうかと思う人、思わない人、いろいろいると思います。幸い、世の中にはたくさんゲームが出ていて、それぞれ自分に合った閾値のゲームをプレーできるので、大きな問題にはなっていないみたいですが。自軍の戦車部隊を仲間の歩兵部隊のいるヘクスにわざとスタックして、スタックオーバーで下の歩兵を邪魔だからと踏みつぶして除去するテクニックも、ルール解釈的にOkという人、それはおかしいからやめてくれという人、いろいろいますが、ある意味象徴的ですね。
by 北島最高! (2008-08-11 14:28)
冗談のわかる人限定の極論ですが...
(SPI)“COBRA”の英文ルールには、ドイツ軍ユニットが、別のドイツ軍ユニットを攻撃してはならいないという、明文化されたルールはありません。“opposing units”とか“Enemy”という一般的な単語は出てきますが、それが何を指すのか厳密な定義は無く、あるヘクスに入りたいドイツ軍装甲師団から見て、そこに居座っているドイツ軍歩兵師団は利害の衝突する「敵」だと強引に解釈すれば、味方攻撃はルール上可能でしょう。
1ヶ所だけ、“He(German Player) can have any of his units attack Allied units that are in hexes adjacent to his own units.”という、目標の制限とも解釈できる文が手順のところにありますが、ただ“can”(それをできる)と書いてあるだけで“only”(それ以外はできない)という明確な限定の語がないので、Allied units以外のユニットを攻撃することを完全に禁じているルールではない、と強弁する余地が1ミリほどあります。
従って、ドイツ軍プレイヤーは、自軍戦闘フェイズにドイツ軍装甲師団でドイツ軍歩兵師団を攻撃し、全滅させ、戦闘後前進で歩兵のいたヘクスに進出することが「ルール上可能」です。「味方をスタックオーバーで除去」がOKな人なら、この方法でもたぶん抵抗無くOKでしょう。ただし対戦相手が怒って、二度とゲームをしてくれなくなっても、当方は一切関知しませんのであしからず。
by ソフィスト (2008-08-12 02:25)
宗佑さま: コメントありがとうございます。ご指摘の通り、ソ連降伏の発生確率というのは、歴史的な「正解」が無いのと同時に、独ソ両軍の「プレイ中の心理状態」にも影響を及ぼす重大な要素なので、扱いは非常に難しいです。この部分のみ、本編のルールと切り離した形で、ダイヤルつまみのように調節可能となっています(ソ連降伏というサドンデス以外の、最終ターン終了時の勝敗判定には、戦意マーカーの数値は全く影響しません)ので、何度か標準ルールでプレイされた後、ご自分ならびに対戦相手の方のお好みに合わせて、戦意マーカーを調節していただければと思います。
ちなみに、私も「後世の歴史家の視点」でモスクワ戦をデザインするとしたら、モスクワが陥落してもソ連降伏という事態はほとんど発生しない設定にすると思いますが、それだとやはり、ドイツ軍プレイヤーの「心理」を、史実の中央軍集団上層部のそれに近づけられないのですね。まさに「史実のタイフーン作戦は最初から無意味な行為になってしまってゲーム化は不可能」という結論になってしまいます。
そのあたりの、当時の軍事指導者の「思い込み」のようなものを、状況認識としてはあまり正しくなかったことを承知の上で、敢えてゲームに大きく反映させるという「鈴木銀一郎イズム」(と私が考えるところ)の方法論も、たぶん賛否両論あるとは思いますが、私自身はこのスタイルでゲームをデザインすることに明確な楽しさと「手ごたえ」のようなものを感じていますので、しばらくお付き合いいただければ幸いです。
by Mas-Yamazaki (2008-08-12 16:33)
北島最高!さま、ソフィストさま: コメントありがとうございます。確かに、特定のルールや、ゲーム中に発生する特定の出来事、プレイ上有効とされる戦術が「シミュレーションとして適当かどうか」という問題には明確な境界線はなく、人によって閾値は違っていると思います。そのため、ゲームの対戦プレイも自然と「閾値やゲーム観が近い人とプレイする」形になっていきますが、これだとゲームを気持ちよくプレイできる反面、自分たちとは違う価値判断基準と接する機会も減るので、解決法としては一長一短なのかもしれません。
「激闘ノルマンディ」のスタック制限に関する問題については、本編記事の方でご説明させていただきましたので、ご参考にしていただければ幸いです。
by Mas-Yamazaki (2008-08-12 16:34)