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2009年7月9日 [ツィタデレ: クルスクの決戦]

今日はシックス・アングルズ第13号「ツィタデレ: クルスクの決戦」のゲーム内容についての話です。

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本ブログの7月6日付記事へのコメントで、「付録のゲームは1990年代初めの出版と記憶しており、そうなるとゲームのクルスク戦の表現は古い時代の?解釈ということでよろしいでしょうか?それとも最新の解釈に合うように内容を作り変えられたのでしょうか?」というご質問がありました。もしかしたら、同様のご心配をされている方が他にもおられるかと思いますが、付録ゲーム「ツィタデレ: クルスクの決戦」の内容は、今回の本誌収録記事で提示した「クルスク会戦の再評価」を踏まえてもなお、状況設定や再現性の面で「古くなった」ということはなく、充分に史実のシミュレーション・ゲームとして通用する内容だと思いますので、プレオーダーを申し込んで下さった方は、ご安心いただきたいと思います。

「データで読み解くクルスク戦の実相」という記事の中で、私が検証を試みた点の1つは、独ソ両軍がツィタデレ作戦で実際にはどれだけの「損害」を被ったのか、ということでした。そして、同作戦の終了時に、ドイツ軍が被った「損害」とされるデータについて、「非稼動戦車台数」と「全損戦車台数」という、混同されやすい数字を明確に区別した上で、「ドイツ軍はクルスク戦で装甲部隊の大半を失い、終戦まで回復できなかった」という、かつて独ソ戦史の常識として語られていた認識は、大きな誤りであるという結論に達しました。

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例えば、ケンプフ軍支隊の第3装甲軍団に所属する、第6と第7、第19の3個装甲師団について見ると、ツィタデレ作戦開始時にはそれぞれ106輌、112輌、81輌の戦車および自走砲を装備していましたが、7月14日の時点で、各師団の稼動戦車台数は14輌(開始時の13%)、24輌(同21%)、27輌(同27%)でした。とはいえ、これだけを見て「第6装甲師団は106-14=92輌の戦車をクルスク戦で失った」と見るのは早計で、同師団がクルスク戦で「全損」した戦車の数は、III号戦車9輌とIV号戦車13輌、それに火焔放射戦車3輌の計25輌のみで、残りの67輌は、故障や損傷により一時的に戦線を離脱したものの、後に修理されて戦線に復帰しました。

この事実を踏まえれば、「ドイツ軍はクルスク戦で装甲部隊の大半を失い、終戦まで回復できなかった」という、ソ連公刊戦史とパウル・カレルが異口同音に記した内容は戦史的事実と一致しないことは明白で、ドイツ軍の装甲部隊はクルスク戦で大損害を被って再起不能となったわけではありませんでした(本誌第11号に収録した、大木毅さんの「戦史夜話」第1回の記事も参照)。ただ、ゲームに登場するドイツ軍の装甲ユニットは、あくまで「稼動状態にある戦車」を表しており、修理不能の全損戦車は少なくても、稼動戦車台数が半数以下に減少すれば、ゲームの中では「全滅」扱いとして、2ステップを失って除去されます。

第3装甲軍団には、装甲師団所属の装甲連隊ユニットが3個(計6ステップ)ありますが、上記の「稼動戦車台数」のデータを当てはめると、ゲーム終了時(7月13日の日没時)には5ステップ分の戦車が「非稼動状態」となって、減少戦力の1個連隊(1ステップ)だけが残っているような状態となります。そして、ゲームにおいても、第3装甲軍団はおそらく、対戦ごとの運不運や両軍の作戦方針で多少の変動はあるにせよ、平均するとこれに近い損害を被ることになるはずです。

私が1991年に「ツィタデレ: クルスクの決戦」をデザインした時には、上記したような詳しい損害データの情報はありませんでしたが、「両軍が史実と同じ行動をとった場合、史実とほぼ同じ場所でドイツ軍の攻勢が停止する」という形にバランスを調整した結果、2009年の現時点で私が妥当と考える「クルスク会戦像」とそれほど違わない内容のゲームに仕上がっています。実際、今回の復刻に際して何度もルール検証のプレイテストを行いましたが、明確化や細部のシステム面の改善をいくつか選択ルールで用意した反面、ゲーム全体の流れや両軍のユニットのレーティング、戦闘(強襲)結果表や対戦車射撃判定表の数値については、まったく変更する必要性を感じませんでした。

ということですので、「ツィタデレ: クルスクの決戦」のゲーム内容に関しましては、デザイナー兼発行人として、自信を持って堂々とお客さんに提供できる「歴史シミュレーションとして鮮度の落ちていないゲーム」であると申し上げたいと思います。発売まであと少しとなりましたが、ぜひご期待ください。

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第3装甲軍団長のブライトさん。クルスク戦では、同軍団は苦労の連続でした…。
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コメント 3

くになみ

ゲームの内容についての詳しいご説明ありがとうございます。当方の疑問は氷解しました。発売をたのしみにしています。
by くになみ (2009-07-10 01:50) 

K

公開されているドイツ軍展開表を拝見しました。
GD戦車連隊の第3大隊がパンター大隊というのは疑問を感じます。
また、各戦車連隊が分割できるようですが、かなりの連隊が1コ大隊しか保有していなかったと思いますので、やはり疑問を感じます。
(第18装甲師団に至っては戦車連隊は持たず、第18戦車大隊を保有していたのでは)
それらを考慮してもユニットのレーティングについてまったく変更する必要性は感じなかったということなのでしょうか。
by K (2009-07-12 14:54) 

Mas-Yamazaki

Kさま: コメントありがとうございます。お尋ねの件につきまして、記事本文で説明させていただきましたので、ご参照いただければと思います。もし何か追加の疑問などがありましたら、お聞かせください。よろしくお願いいたします。
by Mas-Yamazaki (2009-07-13 11:31) 

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