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2010年7月1日 [その他(映画紹介)]

日本代表にとってのワールドカップは、残念ながら目標のはるか手前で終わってしまいましたが、大会前には誰も予想しなかったような、良い試合を見せてもらいました。特に対デンマーク戦は、非常にいい形で攻撃の連携がコンスタントに結果に結びついて、まるで強豪チームのような余裕ある戦いぶりだったと思います。

対パラグアイ戦の交代3人目のカードは、若い森本君に「力試し」させて欲しかったという気もしますが、ともかくナショナルチームとして現在の能力を限界まで出し尽くし、日本じゅうの人々に「日本代表の試合をまた観よう」という気持ちを取り戻させたのは一つの大きな成果でした。4年後のブラジル大会は、本田が28歳、森本が26歳、長谷部は30歳。今回よりもさらに「世界を驚かす」試合をたくさん見せてもらいたいものです。

しかし日本が脱落した後も(当然ながら)大会は続き、いよいよ強豪国が激突する一番おもしろい段階に突入して、各試合から目が離せなくなり、今までにも増して仕事の障害となりつつあります(笑)。まあ、4年に1度のお祭りですし、超一流のプレーを観て仕事のエネルギーをもらう、という大義名分で、私も祭りを楽しみたいと思います。

さて、今日は最近DVDで観て感銘を受けた映画について、少しご紹介します。内容に触れている箇所がありますので、未見の方はご注意ください。

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戦場でワルツを』。イスラエル人のアリ・フォルマン監督が、自らの経験を基に制作した、一風変わったドキュメンタリー映画です。1982年のレバノン侵攻に参加したイスラエルの退役軍人同士が、戦後長らく経って再会し、酒を呑みながら、当時の忌まわしい思い出について語り合うところから、ストーリーが始まります。しかし主人公は、確かに従軍したにもかかわらず、レバノン侵攻そのものの記憶が意識から欠落しており、当時の戦友と会って話を聞いたり、心理学者のカウンセリングを受けたりしながら、少しずつ記憶の断片を回復していきます。

戦争とPTSDというテーマでは、マイケル・チミノの『ディア・ハンター』が有名ですが、アメリカ人にとってのベトナム戦争と、イスラエル人にとってのレバノン侵攻には、いくつか共通点があり、本作は実写ではなく印象的なタッチのアニメーションで、あの戦争に参加したイスラエルの若者を描き出しています。砲塔後部にチェーンカーテンを装着したイスラエル軍のメルカバ戦車や、RPG7を発射するアラブ人の少年など、中東戦争の凄惨な情景が、鮮やかで「お洒落」とも言える絵柄で表現されていて、ちょっと意表を突かれるような映像体験です。

原題は「バシールとワルツを」。バシール・ジェマイエルというのは、レバノンのキリスト教民兵組織で英雄視されていた、親イスラエルの人物で、ベイルートの街角のあちこちにポスターが貼られるなど、当時レバノン侵攻に参加したイスラエル兵にとっては忘れられない「アイコン」の一つです。ただ、主人公を含めてバシールが何者なのか、実は正確に知らずに戦場で戦っていたイスラエル兵も多かったようです。彼が大統領に就任した直後に、ある事件が発生し、ストーリーが大きく転回していきます。当時のベギン首相やシャロン国防相も、なかなか皮肉な描き方で登場し、中東戦争についての多少の予備知識があると、ニヤリとさせられます。

レバノン侵攻における兵士の日常生活を描く中で、当時イスラエル兵が好んだ曲として、OMDの「エノラ・ゲイの悲劇」や、PILの「ディス・イズ・ノット・ア・ラブ・ソング」などが使われていますが、これらは当時中学生だった私もよく聴いていた楽曲で、自分の中での「レバノン侵攻」の認識が、今までとは違った角度でリアリティのあるものになりました。イスラエルでは今でも、レバノン侵攻やガザ紛争などのPTSDに苦しむ元兵士が大勢存在し、しかもその数は今なお増え続けているそうです。

また、イスラエル人の登場人物の一人が、イスラエル軍によるパレスチナ難民の扱いと、第二次大戦中のナチスによるユダヤ人迫害を同一視するような台詞を口にしていたのは、少し驚かされました。そういう視点は、あの国の内部では絶対的なタブーだと思っていたので…。

そして、主人公が最後まで深層心理の奥底に封印していた「記憶」が、ラストシーンですべて甦るのですが、その「忌まわしい記憶が鮮明に甦った瞬間の主人公の衝撃」を、観客もリアルに追体験できるような、壮絶な演出になっていて、見終わった後、しばらくソファから動けなくなりました。あちこちの国際映画賞で高く評価されたのも頷ける完成度で、宣伝文句の「アニメーションでしか描けなかったドキュメンタリー」という言葉の意味も、観賞後の余韻に浸りながら理解できました。

戦争のリアルな一断面(あくまで断面として作られた映画なので、史実のレバノン侵攻のあれが無い、この視点が欠けているなどとケチをつけず、断面として素直に観賞するのが適切でしょう)を鮮やかな手腕で描き出すことに成功しており、中東戦争はもちろん、戦争という(軍事に留まらない)社会現象全般に興味のある方に、一見をお薦めしたい作品です。
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