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2012年1月16日 [隠(なばり)ゲームクラブ]

昨日は、石田さんと 《隠(なばり)ゲームクラブ》 2012年第1回目の例会でした。今回のお題は、GMTゲームズ社の『ラビリンス』。2001年の「9.11」事件に始まる、アメリカとイスラム過激派勢力による地球規模での戦いを再現する、カードドリブン・ゲームです。

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私も石田さんも、このゲームをプレイするのは初めてだったので、じゃあ一緒に練習しながら覚えましょう、ということで、事前のプレイはしないでいたのですが、いざ始めてみるとルールブックの書式が非常にわかりづらく、知りたい情報や疑問点が1つ出てくるたびにページを行ったり戻ったりした上、定義のやや曖昧な文章の行間から意味を読み取るという感じで、かなり時間を余分に費やしてしまいました。

これではゲームを始められない、ということで、ゲームに付属している「プレイブック」の冒頭に掲載されている「チュートリアル(プレイの手引き)」を読み、その通りに作業を進めてみたところ、ようやくシステムの根幹と細部の制限などを理解できました。いったん覚えると、各ターンの作業は非常にシンプルで、さくさくと快調なテンポで進むようになりましたが、チュートリアルの記事がないとゲームのルールを理解できない、従って「お試しプレイ」すら始められない、というのは、少々問題である気がしました(もちろん我々二人だけの問題、という可能性もありますが)。

ゲームの内容は、地球上のイスラム諸国で「イスラム原理主義(イスラム法にのみ基づく国家体制)」の国を増やそうとするイスラム過激派陣営(聖戦主義者=ジハーディスト)と、そうした動きを阻止して地球上からイスラム過激派を根絶することを目指すアメリカ合衆国陣営による、情け容赦ない攻防戦です。

アメリカ陣営は、対象国の政権転覆(体制変換=レジーム・チェンジ)を意図した軍事力の大規模展開や、サウジアラビアなどの同盟国に駐留する軍隊を用いた過激派の掃討作戦、各国に対する政治的働きかけ(イデオロギー戦争)などを行い、過激派の活動地域を狭めつつ、カードのイベントを駆使して過激派リーダー(セル)の暗殺や資金源への締め付けによって、過激派の行動そのものを縮小させる動きを重ねていきます。

対するイスラム過激派は、主に中東のアラブ諸国をはじめとするイスラム教圏に過激派リーダーを送り込んで、現地の同調者を増やし、各国の政治体制を動揺させて拠点を築いた上で、タイミングを見計らって「イスラム原理主義政権」の樹立を目指す暴動(大規模なジハード)を実行します。また、イスラム諸国の富裕層からの寄付を集めるため、継続的に「イスラムの敵」に対するテロ活動(プロット)を行い、資金稼ぎを行わなくてはなりません。過激派の同調者集めには、一定の資金が必要となり、資金がなくなれば、イベント以外では新たな同調者を集めることすらできなくなって、地球上での活動規模がどんどん縮小します。

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ゲームで使用するカードには、具体的な行動を行うのに必要な「作戦ポイント」と、イベントとして使用する内容が記されていますが、実在する組織や個人、兵器、事件などの名称と、それがプレイに及ぼす影響との関連が上手くルール化してあり、「イスラム過激派の活動と米国の対テロ戦争」に興味のある人なら、1枚ずつのカードを眺めるだけで時間が経つでしょう。これらのカードプレイによって、基本システムだけでは再現できない不確定要素や例外的な現実の出来事が、うまく再現できるようになっています。

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ゲームマップ上のヨーロッパ諸国。旅行された人ならご存知の通り、EU諸国(イギリスなど例外あり)と一部の周辺国は「シェンゲン協定」という、国境越えの行き来を開放する協定を結んでおり、人や物の移動はかなり自由です。そのため、イスラム過激派にとっては、密かに過激派指導者を送り込んで潜伏させ、フランスやスペインなどイスラム教徒の多い国で同調者を募ったり、ロシアやアメリカへ移動させたりする拠点としての価値が高い領域です。

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ゲームマップ上のイスラム諸国。ゲームにおける主戦場であり、政治体制が動揺しやすい国がほとんどです。その中で、異彩を放っているのがイラン。このゲームでは、対テロ戦争において強硬(ハード)か穏健(ソフト)か、国際社会で親米的(アライ)か中立的か反米的(アドバーザリー)か、という形で各国の態度を定義していますが、イランだけは「何を考えているのかよくわからない、非常にミステリアスな国」という扱いです。アメリカにとって味方でないのは確かですが、かといってイスラム過激派にとっても、他のイスラム諸国のように「ホームグラウンド」として活動できない国になっています。

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このほか、イスラム過激派の指導者を一方的に除去(暗殺)できる「プレデター(無人攻撃機)」のカードが3枚も用意されていたり、国際社会の動向とアメリカの姿勢が乖離していれば、アメリカが各国で行う政治工作が成功しにくくなったり、米軍の派兵規模が大きくなり過ぎると、逆に行動が阻害され(手札が減り)、また一度政権転覆のために大規模派兵を行った国からは、その国の政治体制が完全に「親米民主主義(Good)国家」として固まるまでは、容易に兵力を撤退させられないなど、現実に起こっている出来事をすぐに連想できるような要素が、巧みにゲームの展開へと織り込まれています。

シックス・アングルズの次号(第14号)において、このゲームに関する記事を10ページほど掲載する予定です。最初は、上に挙げたようなシステム分析と、一般的な日本人に馴染みが薄いようなカードの背景説明などをメインにする予定でしたが、ゲームを始めるまでの「取っ掛かりのハードル」が少々高いような気がするので、まずはゲームを買った人が苦労せずシステムを習熟して遊べるようになるための、ルールとシステムの手引き的な内容をたっぷり盛り込んだ記事を書こうと思います。もし一回の記事で、書こうと思っている内容が全て入り切らなければ、連載として第15号も続けることになります。

また、これは別に「ゲームの欠点」というわけではないのですが、『ラビリンス』というゲームは基本的に「欧米的価値観」に基づいてデザインされており、イスラム過激派がなぜイスラム諸国で一定の支持や共感を得ているのか、彼らはなぜ「自爆テロ」のような行動に走るのか、というような、イスラム過激派陣営側の「内在的論理」を表現する視点が弱い(または欠けている)と思われるので、それを多少補うような、私なりの追加選択ルールなども、記事の中で紹介したいと考えています。さらに、以前の記事で紹介した映画『シリアナ』についての、このゲームと関連づけたレビューコラムも入れたいなぁ、と思っているところです。

もし『ラビリンス』を購入したものの、何をやればいいのかよくわからない、という方がおられましたら、ぜひシックス・アングルズ第14号の発売まで、お待ちいただければ幸いです。

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《隠(なばり)ゲームクラブの活動実績》 
 ※ゲーム名をクリックすると該当記事を開けます。

2008年
第1回 6月27日 6A 「パウルス第6軍』 前編
第2回 8月23日 6A 「パウルス第6軍』 後編

2009年
第3回 2月21日 GDW 『ホワイト・デス
第4回 9月20日 VG 『地獄のハイウェイ
第5回 10月25日 The Gamers 『OCS コリア

2010年
第6回 6月26日 GMT 『バルバロッサ/アーミー・グループ・センター

2011年
第7回 4月9日 GJ 『激闘! グデーリアン装甲軍

2012年
第8回 1月15日 GMT 『ラビリンス
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コメント 2

pmnj

はじめまして。いつも拝見しています。
『ラビリンス』は、最初の敷居が高いというご指摘、同感です。
遊び始めれば面白いのですが、そこまでたどり着くまでの時間がかかりますね。
その敷居を低くしてくださるという『シックス・アングルス 第14号』の記事、期待しております。
by pmnj (2012-01-17 14:17) 

Mas-Yamazaki

pmnjさま: コメントありがとうございます。『ラビリンス』は、アメリカでの評価もすごく高いようですが、個々のルールやイベントの背景を知れば、よりスムーズにプレイできる部分もあるかと思いますので、ルールシステムの解説に加えて、そういう背景知識の解説も盛り込んだ記事にするつもりです。楽しみにしていてください。
by Mas-Yamazaki (2012-01-28 22:22) 

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