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2012年5月12日 [ミッドウェー/日本海海戦]

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今週月曜日、雑誌『歴史群像』最新号(2012年6月号)が発売されました。今号の私の担当記事は「シリア紛争史」。第二次大戦後のシリア独立から、父ハーフィズ・アサド体制の形成、第四次中東戦争時のゴラン高原での戦車戦、そして次男バッシャールへの権力継承と、今なお続くシリア反体制派の闘争などを、わかりやすく解説しています。

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現在シリアでは首都ダマスカスで爆弾テロが発生するなど、再び緊迫した状況に置かれていますが、日々のニュースを見聞きする際、その背景と併せて理解する一助として、今回の記事を活用していただければ幸いです。


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さて、本誌を購入された方はお気づきかと思いますが、『歴史群像』誌の次号(7月6日発売の8月号)には、創刊20周年記念の特別付録として、戦史をテーマにしたボードゲームが収録されます。ゲームは、2人用の「ミッドウェー海戦」と1人用(ソリテア)の「日本海海戦」の2つで、B2サイズのフルカラーマップ(両面印刷でそれぞれのゲーム用のマップが表と裏に印刷されます)と厚紙打ち抜きのコマ120個、48ページの別冊ルールブックという、ゲーム業界の感覚から言うとかなり思い切った豪華仕様(笑)です。ちなみにコマのサイズは、いつもの12.5ミリではなく、ほんの少しだけ大きくした15ミリ角となっています。

ミッドウェー海戦」と「日本海海戦」のゲームデザインは、私が担当させていただきました。既にシミュレーション・ゲーム/ウォーゲームに「免疫」のある人ではなく、一般の読者に遊んでもらうためのゲームということで、今回のデザインに際しては「ユニット」や「ヘクスマップ」などの「シミュレーション・ゲームの常識」をいったん捨て、「歴史ボードゲーム」というコンセプトで全体の構成を組み立てることにしました。

ただ、デザイン上の目標そのものは、私がいつもシミュレーション・ゲームのデザインで目指すのと共通する方向に据えることにしました。具体的に言うと、戦史の経過をトレースするのでなく、当時の両軍指揮官が感じたジレンマや焦り、戦果拡大への誘惑などをプレイを通じて味わえる素材を提供するという「鈴木銀一郎イズム」のコンセプトです。

今回のゲーム制作で一番重視したポイントは、なるべくわかりやすいルールで「ゲーム」の対戦を行いつつ、戦史の結果を左右した「決断の醍醐味」をプレイヤーが味わえるようにすることでした。「決断の醍醐味」とは、単に攻めるか待つか、右を攻めるか左を攻めるか、ということだけでなく、刻々と変化する全体の状況を常にブラウザの「再読み込み」のような形で再認識しつつ、重要な戦機の潮目を読み取り、待ちの姿勢から大きなアクションへと一気に転換する「タイミング」を自分で見極めて、部下に命令を下すことまで含んだ概念です。

ミッドウェー海戦」の場合、ゲームの手順は双方が交互に1回ずつ「アクション」を行う形で進行しますが、アクションの種類には「索敵(敵空母の位置情報の収集)」「艦上作業(いずれか一隻の空母の艦載機を「着艦」から「整備・装弾」を経て「発進準備」へと1マス進める)」「航空隊の出撃」「敵空母の攻撃」「強制帰還」「(自軍空母の)修理の試み」「(敵空母の)誘爆判定」の7種類があり、相手の行動を読みつつ、自軍の行動は焦らずに慎重を期す必要があります。

ミッドウェー海戦」も「日本海海戦」も、今回はヘクスのマップを使っておらず、前者の場合は相互の艦隊または艦艇の位置関係という要素をゲームから除外しています。言い換えれば、各プレイヤーは相手側の空母を「発見」したか否かという点のみに意識を集中し、索敵行動は「索敵チット」と呼ばれるコマをカップからランダムに1個引くことで進展します。個々の「索敵チット」には、双方の空母名と「情報の確度」が印刷されていますが、連合軍の情報面での優位を再現するため、日本軍の空母2隻が書かれたチットが一定数含まれ、また日本軍がミッドウェーの米軍航空基地に一定の打撃を与えた時点で、日本軍の不利を若干解消できる「索敵チット」がカップに追加で投入されます。

索敵が不十分(目標空母名が記された「確度Aの索敵チット」が少ない状態)で攻撃を仕掛けても、肝心の空母を発見できずに空振りに終わり、貴重な手番を浪費してしまう(帰還した航空隊は「艦上作業」で1マスずつ進めないと再出撃不可)可能性が高くなります。かといって、十分な「索敵チット」が揃うまで待っていたのでは、敵に先手を取られて航空隊を積んだ空母を炎上させられる恐れもあります。大胆さと慎重さという相反する要素が、プレイヤーの「決断」には求められます。

敵空母への攻撃は、サイコロで判定される敵の対空砲火(1回の攻撃につき2回)をくぐり抜けた航空隊によって実行され、目標空母の被弾数もサイコロと判定表で判定します。各空母は、被弾数の累積によって「小破」「中破」「大破」「沈没」となりますが、米軍ではヨークタウンが他の空母2隻(エンタープライズ、ホーネット)よりも被弾に弱く設定してあり、日本側は赤城・加賀よりも飛龍・蒼龍がほんのわずかに弱くなっています。「大破」の状態になれば、相手側はアクションで「誘爆判定」を選ぶことができ、そのサイコロ判定で被弾数が追加されれば「沈没」となります。

日本軍プレイヤーがゲームに勝つためには、敵空母に損害を与えるだけでなく、ミッドウェーの基地にも大打撃を与えて、陸軍部隊の上陸が可能な状態にしなくてはなりません。これは、連合艦隊司令部と軍令部の作戦目標をめぐる不統一を再現しています。また、日本側は複数の空母に搭載されている航空隊でグループを編成して敵空母を攻撃できる利点を有していますが、1回のアクションで艦上作業させられるのは1隻の空母の航空隊のみなので、残りの空母は「発進準備」状態で待機しなくてはなりません。そして、航空隊が敵空母を発見して攻撃を行う際、目標の空母に「発進準備」の航空隊がいると、誘爆による被弾数増加という修正が発生するので、史実における「雷爆換装」のような予想もしなかった惨劇が甲板上で発生する可能性があります。

日本海海戦」の方は、ゲーム最初の「敵前大回頭ステージ」と計5回の「砲撃戦ステージ」から成り、プレイヤーは連合艦隊司令長官・東郷平八郎の役割を演じます。「敵前大回頭ステージ」では、まず戦場の対馬周辺海域における「波の高さ」をサイコロで判定し(「浪高シ」「浪ヤヤ高シ」「浪低シ」の3種類)、続いて敵のバルチック艦隊からどれだけの距離(4種類)で連合艦隊を「回頭」させるか決定した後、その距離に応じた「(日本側の)損害判定」を行います。この時、損害の出方は敵との距離と「波の高さ」によって変動します(距離が遠いより近い方が損害が出やすく、また波が高いより低い方が損害が出やすい)。

各「砲撃戦ステージ」では、日本海軍の艦艇(三笠、敷島、富士、朝日、春日、日進の計6隻)が、ロシア海軍バルチック艦隊の艦艇(スワロフ、アレクサンドルIII世、ボロジノ、アリョール、オスラビア、ナワリン、シソイ・ヴェリキー、ニコライI世の計8隻)の間での砲撃戦を実行します。日本軍の砲撃は、艦艇ごとに目標を決めてサイコロを振り、砲撃判定表で損害を判定しますが、日本軍の損害(ロシア軍の判定)はサイコロではなく、一定数の「日本軍損害チット(被弾した艦名または損害無しの表示)」をカップからランダムに引いて判定します。このチット数は、艦隊間の距離と波の高さによって変動しますが、旗艦スワロフが沈没すれば、日本軍が多少有利になる修正(損害無しのチットを2個追加)が加えられます。

連合艦隊とバルチック艦隊の距離は、1回の砲撃戦ステージが終わるごとに、プレイヤーが一段階のみ調整できます。このように、プレイヤーは波の高さと敵艦隊との距離、連合艦隊とバルチック艦隊の被弾状況を見極めながら、艦隊間の距離を調節し、自軍の損害を抑えつつ、バルチック艦隊に与える損害を最大化するよう「決断」を繰り返していきます。

両ゲームとも、私がプロトタイプをデザインした後、日本海軍の戦史に造詣の深い堀場わたるさんと松谷健三さんに横浜で(秘密裏に)プレイテストを繰り返していただき、ゲーム自体のディヴェロップと、ゲーム内の処理を歴史的事実に整合させる作業を地道に進めてきました(これを読んで、少し安心された方も多いかと思います・笑)。艦艇ごとの能力や耐久力のちょっとした違いに、史実における差異を反映させるよう心がけましたので、テーマとなっている二つの戦いについての知識が深い人にも、満足していただけるゲームになったのではないかと思います。

現在、両ゲームとも最終仕上げの段階に入っていますが、1回のプレイは「ミッドウェー海戦」が30分から1時間、「日本海海戦」の方は慣れれば15分くらいで終了する形になっています。発売まで2か月となりましたが、ぜひ期待していてください。
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o-ton

はじめまして、いつも楽しみに拝見させて頂いております。
今回のボードゲーム付録情報には大変驚きました。
そして、デザイナーが山崎氏とお聞きし、とても楽しみにしております。
最初、何故山崎氏が「海戦もののデザインを」と不思議に思っておりましたが(東部戦線ものならわかりますが)、今回のお話を伺って、納得がいきました。
しかし、歴史群像にWGを付録に…という夢を結構思い描くことはありましたが、それがまさかこんな形で現実になるとは思ってもみませんでした。
現在、最終調整の段階ということですが、今から、発売日が楽しみです。WGに免疫のない友人もプレイに誘えそうです。

次回は、戦国もので…というのは少し欲張りすぎでしょうか。
by o-ton (2012-05-12 13:52) 

Mas-Yamazaki

o-tonさま:コメントありがとうございます。本文でも書きましたが、今回のデザインでは「誰でもプレイできる面白いボードゲーム」を目標に設定しました。ぜひお友達と一緒にプレイしてみてください。

今後「第二弾」があるかどうかは、『歴史群像』誌次号の売れ行き次第だと思います。先日のゲームマーケットは参加人数が過去最大だったそうですし、ボードゲーム界隈の盛り上がりで、いろんな「新たな展開」があちこちで起これば、と期待しています。
by Mas-Yamazaki (2012-05-21 22:12) 

鈴木

久しぶりに立ち寄りましたが、これは素敵な企画。購入しますね。
by 鈴木 (2012-06-05 08:14) 

Mas-Yamazaki

鈴木さま: コメントありがとうございます。気軽にプレイでき、なおかつ簡単には飽きないようなゲームに仕上げたつもりですので、ぜひ発売の折には楽しんでください。
by Mas-Yamazaki (2012-06-09 18:42) 

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