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2015年11月3日 [その他(ウォーゲーム関係)]

ベルリン試し刷り.png


シックス・アングルズ第16号『ベルリン陥落 1945』は、現在印刷段階に入っており、予定通りに今月中に発売できそうです。プレオーダーを下さった皆様、もう少しお待ちください。上の画像は、校正用の試し刷りです。

さて、今日は最近いただいた、あるメールをご紹介します。お名前は伏せ字にしますが、ここに書かれているのと同じような話を、取材を受けた新聞記者さんや雑誌編集者さんからもよく質問されます。

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山崎雅弘様

はじめまして。 ●●と申します。

ツイッターでのリベラルな発言でよく目にする「山崎雅弘」氏。なんか見かけたことのある名前だなあと思い、プロフィールを見ると、戦史関係の著作のある方らしい・・・

え? もしかして、あのシミュレーションゲームデザイナーの山崎雅弘さん? Wikipediaなどを参照して、やはり、どうも同一人物なのは間違いなさそうだ。

ということで、突然のメール失礼します(笑)

こういっては何ですが、SLGやる人って右寄りの人たちが多そうで、極めてまっとうな民主主義的発言をされている人物と、どうも結びつかなかったのです(笑) 戦史・ミリタリー関係が好きだけど、思想的にはリベラルという人物は、宮崎駿さんに次いで2例目です、自分の中では(笑)

こんなメールを出す以上、自分もSLGを趣味としています。とはいえ、一番やったのは、中学・高校時代で、今ではたまにコマンドマガジンやゲームジャーナルを購入したり、昔欲しかったゲームをヤフオクで落札したりといったくらいのことしかしてません。ふと、対戦を求めイベントへの参加を考えたりしますが、ネトウヨみたいな人たちがばかりだと、気分悪いだけですから、参加は見送っています。

それにしても、とんでもない時代になったものですね。SLGが流行った80年代から、たかだか二、三十年ほどでこんなに変わるなんて。。。

こんな時代ですので、民主主義者がしっかり声を上げて行くというのはとても大事なことですよね。当方といえば、今夏の安保法制反対デモに相当参加しました。採決の日は徹夜して国会議事堂前で声あげていました。あと、政党や議員宛にメールするとかやってます。自分にできることといったらこのくらいですので。

とりとめのない内容ですみません。SLGをやり、かつリベラルな人がいらしたということが嬉しかったため、メールさせていただいた次第です。

これからも、極々まっとうな民主主義者の立ち位置からの言論活動、応援しています!

#『戦前回帰』はすごくいい本だと思います!
#『ハリコフ大戦車戦』(翔企画)では、かなり遊ばせてもらいました(笑)

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このメールに対し、私は以下のような返信をお送りしました。

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●●さま


こんばんは。とても興味深いメールを、ありがとうございます。

シミュレーション・ゲーム愛好家を含め、軍事マニア/オタクと呼ばれる人は一般に「右寄り」だとされていますが、私の見るところ、「右寄り」というよりは「左翼嫌い」や「朝日新聞嫌い」が多いような気がします。

その理由については、私にもなんとなくわかる気がします。表面的な「綺麗ごと」で戦争や歴史を語ったり、自らが正義であるかのような高飛車な態度で「軍事」にまつわる問題を切り捨てるような傾向が、「左翼」や「朝日」には多々あったことは事実だと思います。自衛隊員が相応の社会的地位を長らく得られなかったのも、そうした人々の行動に原因があったのでしょう。

けれども、最近はそうした「左翼嫌い」や「朝日新聞嫌い」の人が、自分と同じように「左翼」や「朝日」を攻撃しているからという、ただそれだけの理由で、安倍政権を応援する側に立っている例も多いような気がしています。例えば安保法制の議論でも、首相の代わりに自分が論理的に説明してやる、という人は皆無で、ひたすら反対派を「左翼」や「朝日」に結びつけて罵倒するだけのような人を多く見ます。

ご存知かと思いますが、ナチスは、ドイツ国民(および占領した北欧・西欧の国民)の支持を集めるために「共産主義の脅威」を煽る手法を使い、それに応えて「自分は反共だから」という理由でナチスに加担した人が少なからずいました。1945年4月から5月の、首都ベルリンを防衛する戦いにおいて、ヒトラーの側に立ってベルリンを守ったSS部隊は、オランダ人やノルウェー人などの「反共義勇兵」部隊でした。しかし歴史的に見れば、スターリンを敵視してヒトラーの側につくというのは、きわめて愚かな選択であり、そうした(共産主義か、ナチスかという)二者択一以外にも、自国の将来にとって良い道はいくつも存在したはずでした。

それと同様のことが、今のこの国でも起こっているような気がしてなりません。「左翼」や「朝日」が間違っているからといって、それらを批判する「安倍政権」が正しいということにはなりません。敵の敵は味方、という単純な二者択一を安易に受け入れるのではなく、今この国で何が起こっているのか、そしてこのまま社会の変化を放置・傍観した場合に、この国がどんな道に進むのかを、過去の歴史を道しるべにしながら理解し、手遅れにならないうちに是正する必要があるように思います。

ちなみに私も、今年の夏はデモや集会に何度も参加し、8月30日の国会議事堂前の抗議集会もど真ん中で声をあげました。過去の歴史をそれなりに知る者の責任として、自分の目の前で作られつつある「歴史」に、今後もさまざまな形で関わっていくつもりです。

ところで、今回いただいたメールの文面ですが、お名前を伏せ字にした上で、ブログに転載させていただいてもよろしいでしょうか? おそらく、こういう話題に関心がある方は、●●さん以外にもおられると思いますので、ブログの記事にすれば、興味を持って読まれる方もいるかと思います。

それでは、今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。


山崎雅弘

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ブログ転載という私の申し出に対し、このメールの送り主の方は快く了承して下さいました。私の考えの全てを説明できているわけではありませんが、この記事をお読みになられる方々のご参考になればと思い、今回はこのような形にしました。

「歴史を研究する者は、目の前で進行している歴史の生成に関与してはならない」というような、タイムトリッパー的な「傍観主義」に基づいて、社会の政治的変化に沈黙・傍観の態度をとる歴史家や歴史研究者もおられるようですが、私はそのような考え方には与しません。なぜなら、もう取り返しのつかない段階に事態が進展してから、望ましくない歴史の流れを止めようとしても手遅れである、ということも、過去の幾多の歴史が我々に教える厳然たる現実だからです。

現在のドイツ連邦軍では、ナチス時代の反省から「上官の命令には絶対服従」という考え方が原則として否定され、たとえ上官の指示であっても、非人道的な命令には従わなくてもよいという「抗命権」が認められています。その前提にあるのは、「軍人も軍人である以前に一人の市民である」という民主主義国の価値判断です。それと同様、民主主義国に生きる歴史家や歴史研究者もまた、一人の市民として、自分の属する社会の健全さの維持に対し、責任の一端を負う立場にあるはずです。

例えば、半藤一利さんや保阪正康さんは、厳密には「歴史家」でなく「ノンフィクション作家」ですが、過去の歴史をよく知る一市民としての社会的責任を、きちんと果たされていると思います。お二方が様々なメディアでされているのは、単なる「政権批判」ではなく「過去の失敗事例と共通するパターンの再来に対する警告」であり、政治思想とは別に、誰もが落ち着いて耳を傾けるべき「警鐘」です。

また、現在の日本政府がとっている、重要な政策決定の審議経過に関する記録を残さなかったり(内閣法制局)、国会での議論を記録した議事録に「実際には存在していない架空のやりとり」を捏造して追記する(参議院)などの「歴史に対する背任」行為は、後世の歴史家の研究を著しく妨害するものであり、同時代の歴史家は後世の歴史家の代理人として、直接的な抗議の声を挙げる責任を負っているようにも思えます。1945年の敗戦当時、重要な歴史的史料が大量に破棄・焼却されたために、市民虐殺や慰安婦問題、人体実験などに関する当時の実情を知る手がかりがあちこちで失われている現状を鑑みれば、そうした「歴史に対する背任」がどれほど悪質で、後世の人々に対して不誠実な態度であるかを理解できるはずです。

政治権力が当たり前のように歴史研究に介入して、時の権力者に都合のいい歴史だけを書かせ、不都合な歴史は書くことを禁じるという政治体制の国は、戦前戦中の日本やドイツを含め、過去にいくつもありましたし、現在も少なからず存在しています。今まで、私が世界中の戦史や紛争史についての原稿を自由に書けていたのは、私が生きてきた戦後の日本社会が「幸いにもそういう政治体制ではなかった」からですが、来年以降もそうであり続けるのか否かは、今を生きる日本人の行動と態度によって左右されます。そういう重要な分岐点に、我々は今立っていると、私は理解しています。

メールの文面の繰り返しになりますが、私も「過去の歴史をそれなりに知る者の責任」として、自分の目の前で新たに作られつつある「歴史」がどのようなものなのかを判断・評価しながら、今後もさまざまな形で関わっていくつもりです。



【追記】

シミュレーション・ゲーム(SLG)愛好家のイベントや定例会について、誤解があるといけないので少し補足しておきます。私がよく出入りしているゲームクラブの定例会で、いわゆる「ネトウヨみたいな人」と遭遇して嫌な思いをしたことは一度もありません。

シミュレーション・ゲーム愛好家は、基本的に「歴史好き」の人が多く、会場ではいつも個々のゲームの背景の歴史についての話で盛り上がりますが、公共スペースなので、みな社会人としての節度を守ってコミュケートしています。



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