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2019年12月31日 [その他(戦史研究関係)]

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今月も、新刊が出ました。単行本『東西冷戦史(一) 二つに分断された世界』(アルタープレス)がそれで、1945年の国連創設と1948年のベルリン封鎖から、20世紀後半の世界を文字通り分断した「東西冷戦」を、政治と軍事の両面から読み解きます。今回の(一)では、朝鮮戦争とインドシナ半島の戦乱に光を当てます。

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この本は、過去に雑誌「歴史群像」に寄稿した原稿の中から、テーマごとに抽出して加筆修正する「戦史・紛争史叢書」というシリーズの第一巻で、共通の執筆意図について書いた「はじめに」の一部を以下に再録します。

 戦争や紛争は常に、新たな形態で発生し、特に軍事面では過去の戦訓が役立たないことも多い。隣国ドイツからの侵入を防ぐ目的で、第一次世界大戦の戦訓に基づいて構築されたフランスの大要塞「マジノ線」が、戦車や航空機の発達で完全な「役立たず」となっていることに気づかれず、二〇年後に勃発した第二次世界大戦ではドイツの電撃的な侵攻をまったく防げなかったのも、そうした教訓の典型的な一例と言える。
 その一方で、戦争や紛争に至る「前段階」の政治的変化や国家間の対立がエスカレートするプロセスに目を向けると、軍事技術の変化とは別の次元で、過去から現在まで共通するパターンも数多く読み取ることができる。
 いったん戦争や紛争が始まってしまえば、主に「軍事」の出番となるが、その発生回避という段階では、さまざまな政治面の相互誤解や感情的な言動の応酬、国家指導部の面子や威信への固執など、昔も今も変わらない人間的要素と「理性の限界」が、その後の展開を大きく左右する。従って、戦争や紛争の勃発を回避するためには、その前段階にこそ目を向け、何が指導者や国民を狂わせるのかを理解しておく必要がある。

私の原稿を読まれた方には説明不要かもしれませんが、私は戦争や紛争についての分析原稿を書く時、その経過だけでなく、発生原因を含む「前史」にも重点を置いています。この本では、日本の敗戦に前後して進められた「国連=国際連合(United Nations、より原語に忠実な訳語は『連合国』)」の創設から、1948年のベルリン封鎖、1950年〜53年の朝鮮戦争、1946年〜54年のインドシナ戦争(フランス植民地からのベトナム独立戦争)、1965年〜75年のベトナム戦争、それに前後して隣国のラオスとカンボジアで発生した紛争について、東西冷戦という国際的な枠組みの形成と米ソ超大国の「代理戦争」という側面、そして個々の地域や民族、国家に起因する固有の事情に光を当てながら、全体像と発生原因、共通点を俯瞰的に読み解いています。

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東西冷戦の終結後に生まれた世代が社会に増えた今、冷戦時代の戦争や紛争も次第に風化しつつあるように見えますが、しかし個々の戦争や紛争に目を向ければ、そこに存在する力学や国民煽動の手法などは、今の世界で今なお生き続けていることがわかります。冷戦時代の「世界の分断」について、改めて「おさらい」できる一冊として、活用していただければ幸いです。


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次に、12月6日発売の集英社の季刊誌「kotoba」2020年冬号に、私のインタビュー記事(6ページ)が掲載されました。

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取材を受けたのは8月で、あいちトリエンナーレの展示中止とその背景にある歴史修正主義の思想、差別や憎悪を煽る言説が社会に及ぼす害毒、デマやフェイクを見破る方法などについて語りました。


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また、12月13日に平川克美さんと隣町珈琲で収録した「ラジオデイズ」の対談音源が、リリースされました。対談のテーマは、現在の日本における時事問題で、日本の若者の話もいろいろしましたが、若者を批判するという文脈では(もちろん)ありません。

山崎雅弘×平川克美「権力に抗えないメディアと不安な若者」


それから、今日の毎日新聞のネット記事に、私のコメントが紹介されています。

この1年を「日本が世界の真ん中で輝いた」と表現する安倍首相の世界観とは

以下は、私のコメントの抜粋です。

「『無意識なのかもしれませんが、図らずも安倍首相の頭の中にある『優先順位』を可視化しました』と、戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんは指摘する」
「『世界の真ん中で日本が輝く』という概念は、米国のトランプ大統領のような『自国中心主義』と同じように捉えられるかもしれませんが、それは違うと思います。首相は今回、米大統領来日、G20、即位礼正殿の儀、ラグビー・ワールドカップに言及していますが、すべて外国からの来客のことばかりで、自国民について全く触れていないのです。自国民の現状に関心がない」
「一過性のイベントの成果ばかりを自慢し、苦しんでいる自国の被災者は眼中にない、と批判されても仕方ない」
「そもそも『世界の真ん中で輝く国』なんて現実の世界には存在しません。情緒的な宣伝用の言葉なのです。現実離れした幻想を国民に抱かせ、政府の失敗や不都合な現実から目をそらす。その姿勢は、太平洋戦争の後半、戦況悪化という事実を覆い隠した戦争指導者たちの言動を連想させます」



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さて、2019年も今日と明日で終わりです。今年は本を4冊上梓し、『歴史戦と思想戦』(集英社新書)は各方面で大きな反響を呼んで、六刷のベストセラーになりました。買って下さった方、ありがとうございました。来年執筆する予定の何冊かの本について、資料収集と内容構成の練り込みをすでに始めています。

また、雑誌記事執筆や講演イベント、メディア取材などの言論活動も、幅広い形で行い、多くの方と新たに知遇を得ることができました。2020年も、さまざまな分野の仕事や活動でベストを尽くす所存です。来年も、よろしくお願いいたします。

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それでは、皆様も良いお年を!


【おまけ】

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2008年にデザインして個人出版した歴史ボードゲーム「モスクワ攻防戦」の英語版「ラスト・スタンド」が、来年初めにアメリカのMMP社から出版予定。テーマは第二次世界大戦のモスクワ攻防戦(雑誌「歴史群像」の付録になったものとは別のフルサイズのゲーム)。

これ以外にも、アメリカのコンパス・ゲームズから新作「フォー・マザーランド!」英語版が、中国のメーカーから「ウォー・フォー・ザ・マザーランド」(シックス・アングルズ第9号版)中国語版が、それぞれ出版される予定です。
 
 
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