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2020年9月30日 [その他(戦史研究関係)]

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9月6日に「歴史群像」最新号が発売されました。今回の担当記事(その1)は、日本降伏後、朝鮮半島が南北に分断されつつあった時期の済州島で起きた「済州島4・3事件」で、警察と右翼活動家、軍人が住民を「共産党シンパのアカ(バルゲンイ)」と決めつけて大量殺害した悲惨な出来事を、俯瞰的に解説しています。

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大国による信託統治や南北分裂を決定づける単独選挙に反対した済州島の市民を、当時の李承晩政権とその後援者であるアメリカ軍政当局は「秩序を乱す不穏分子」と見なし、警察と右翼団体を派遣して弾圧しました。それに対し、1948年4月3日に市民側の武装勢力が警察と右翼を襲撃すると、李承晩政権は軍を投入して武力鎮圧に乗り出し、武装勢力だけでなくそれを匿っていると疑われた大勢の市民を殺害しました。そして、1950年に朝鮮戦争が勃発すると、李承晩政権に従順でない済州の人々は「アカ」の疑いをかけられて弾圧や殺害の対象となり、済州島の人口の一割に相当する三万人の市民が殺害されましたが、その三分の一は女性と子ども、老人でした。一部の生存者は、難民として大阪などに逃れました。

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記事の最後で触れましたが、共産シンパと言いがかりをつけて3万人もの自国民を殺害した同事件について、韓国大統領は2003年に政府の非を認めて謝罪し、韓国軍と韓国警察も2019年に当時の誤りを組織として認めました。

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こちらは、済州島にある「済州4・3平和記念館」。済州島4・3事件には、アメリカ軍も深く関与していましたが、この博物館ではその辺りの経緯についても説明しています。当時の国際社会は、東西冷戦の勃興期であり、米軍は共産主義勢力の拡大に神経を尖らせていました。スコーチド・アース(焦土)戦略とは、ゲリラの拠点になりうる民家などを焼き払う、住民無視の軍事的行動でした。

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記事本文で触れた、済州島南西部の慕瑟浦にいくつも残る旧日本軍の掩体(飛行機を隠すシェルター)。1930年代に「アルトゥル飛行場」という日本軍の飛行場が島の南西部に作られ、1937年に日中戦争が始まると、ここを出撃した日本海軍機が南京などを爆撃しました。掩体の建設工事には、地元住民が強制徴用されましたが、コンクリートの中に鉄筋が入っているため簡単に壊せず、今も残されています。大日本帝国時代の負の遺産の一つです。

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これも、記事本文で触れた、済州島南西端の松岳山に残る旧日本軍の陣地洞窟。日本軍は米軍が本土上陸に先立って済州島に侵攻することを想定し、7万人の兵力を駐留させていました。山中にはトンネルがあり、岸壁には体当たり攻撃に使う特攻艇「震洋」を隠す穴がいくつも開けられています。「チャングムの誓い」のロケ地でもあるそうです(私は見ていないので、詳しくはわかりませんが)。

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済州島北部の東門橋にある韓国海兵隊の記念碑。済州島4・3事件の後、李承晩政権に貼られた「アカの島」という汚名を払拭するため、済州島の若者の一部は韓国軍の精鋭部隊である海兵隊に志願し、朝鮮戦争で北朝鮮軍・中国軍と激戦を繰り広げて戦功を挙げました。アメリカへの忠誠を示すために米軍に志願した、第二次大戦時の日系アメリカ人部隊(第442連隊)とも似た一面があります。

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また、「歴史群像」最新号には、担当記事(その2)として、前号付録ボードゲームのチュートリアル(手引き)記事を寄稿しています。前半部はカラーの8頁記事で、二人用ゲームを一人でプレイするやり方についても少し触れています。

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対戦相手がいないから、とあきらめる前に、ぜひ一度「ソロプレイ」を試してみて下さい。やってみると簡単で、歴史に関心のある人なら、新たな世界の扉が開かれると思います。
 
 
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太平洋の向こう側では、2008年に「シックス・アングルズ」第11号の付録として個人出版した歴史ボードゲーム(ウォーゲームまたはシミュレーション・ゲーム)「モスクワ攻防戦」の英語版 “Last Stand” が、アメリカのメーカー「マルチ・マン・パブリッシング(MMP)」から最近発売されました。

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年末から来年にかけて、米国であと2つ、中国でも1つ、歴史ボードゲーム発売の企画が進行中です。歴史ボードゲームの愛好家は世界中にいるので、旅先で現地のゲーマーと交流するのも楽しい経験です。
 
 
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それから、noteに新しい記事を投稿しました。

タイトルは『大村知事リコール運動で雑に使われる「天皇陛下」という言葉』。「天皇への侮辱を許すな」という大義名分で行われている、高須克弥氏や河村たかし名古屋市長らの政治運動が、本当に「天皇を敬愛する行動」なのかどうかについての論考です。諸々の根拠も挙げたので、少し長くなりました。

大村知事リコール運動で雑に使われる「天皇陛下」という言葉

記事より一部引用します。

今の時代を生きる日本人なら、『陛下』あるいは『天皇陛下』という言葉を聞いて、まず思い浮かべるのは、今上(現在の天皇)と上皇(先代の天皇)の姿でしょう。そんな人々が、事情をよく知らないまま、河村たかし氏の『陛下への侮辱』という激しい言葉を目にすれば、あたかも大村愛知県知事が今上や上皇に対して、何か侮辱的なことをしたと勘違いして、不快感や怒りの感情を胸に抱くかもしれません。そして、それを勘違いだと気づかないまま、リコール運動に賛同してしまう人も出てくる可能性もあります。


『天皇を侮辱するな』と高飛車に語る人間こそ、実は天皇の意に反していることがあり得ることをこの事件(1935年の「天皇機関説事件」)は教えています。

 
 
【おまけ】

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青山高原の風景。名張から30分ほどの場所にあり、標高7〜800メートルの頂部からは、伊勢湾と津市などの平野部を望めます。

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風が強い日が多いですが、この日は無風だったので、巨大オブジェのような風力発電の羽根車は止まっていました。

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