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2012年8月30日 [ミッドウェー/日本海海戦]

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今日は『歴史群像』誌付録ゲーム「ミッドウェー海戦」についての話題です。このゲームのデザイン意図については、以前の記事でも少し書きましたが、ウォーゲーム/シミュレーション・ゲームをふだんプレイされている方には、物足りないと感じられる点もいくつかあるだろうな、ということは、制作途中から感じていました。

それで、ゲーム本編が発売されたあとで、ウォーゲーマー/シミュレーション・ゲーマー向けに追加ルールのモジュールを用意しようと考えており、実際にプレイされた方の意見をいろいろ聞きながら、最終的に採用するルールの内容を検討しているところです。

現在検討中の追加ルール(ルール修正)の一つは、航空隊と対空砲火に関するものです。標準ルールだと、対空砲火のサイコロを振る際、出た目がマスに表示された数値以下だと無条件で航空隊コマが撃墜されて全滅しますが、修正版では日本軍が攻撃側である場合のみ、コマを裏返しにして飛行を続けます(ウォーゲーム/シミュレーション・ゲーム的に言えば、表面が2ステップ、裏面が1ステップと考えてください)。アメリカ軍の航空隊については、標準ルール通りの扱いとします(迎撃のCAPを含む、パイロットの練度差を表すものと考えてください)。

そして、最終的に標的のボックス(ミッドウェー島または空母)に到達した日本軍の航空隊コマのうち、裏面の状態になっているものは「0.5コマ」と計算し、それを2つ組み合わせて「1コマ」と見なして、爆撃や雷撃を行えます。基本的には、爆撃機と雷撃機はそれぞれ同じタイプのコマと組み合わせますが、同種のコマが無い場合に限り、爆撃機0.5コマと雷撃機0.5コマを組み合わせて「爆撃機または雷撃機のどちらか一方(所有プレイヤーが選べます)のコマ」と見なして、爆撃や雷撃を行えます。端数の(最後に残った)0.5コマは、爆撃や雷撃を行えず、全滅したと見なされて除去されます。

空襲の解決後、日本軍の航空隊コマは、爆撃や雷撃を行った状況(つまり裏面のコマ2個が表面のコマ1個と置き換えられた状態)で、母艦に帰還します(追加のペナルティはありません)。例えば、裏面の爆撃機コマが4個あるなら、爆撃機コマ2個として空襲を解決した後、その爆撃機コマ2個のみ、母艦に帰還します。もし、裏面の状態で組み合わされた2個の航空隊コマが、異なる母艦の所属であれば、日本軍プレイヤーはどちらの母艦機1個を残すのかを選択できます。

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この修正により、日本軍航空隊コマの生還率が少し高まるので、ゲームの1回の対戦時間は標準ルールよりも少し長くなる可能性がありますが、日本軍が多数の航空隊コマを一度の出撃に投じる意味が、より強まることになり、「対空砲火で航空機があっという間に消耗してしまう」あるいは「対空砲火のサイの目が悪いと序盤でやることが無くなってしまう」という不満は、ある程度解消されるのではないかと思います。

私自身は、史実のミッドウェー海戦も全体として見れば「意外とあっさり決着がついてしまった」ように思えるので、残念な結果に終わった時には「もう一回やろう!」と最初から再戦するのが好きですが、ゲームをお持ちの方はぜひ一度、上記の修正ルールで試してみてください。ゲームバランスは、標準ルールでは史実で敗北した日本軍にやや厳しい目に設定してありますが、この修正ルールを採用すれば、戦術次第では日本軍の劣勢が多少補われるはずです。

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2012年7月17日 [ミッドウェー/日本海海戦]

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本日、学研パブリッシングさんより私の最新刊『侵略か、解放か? 世界は「太平洋戦争」とどう向き合ったか』が発売となりました。一般書店への配本は、店舗により1日から2日後になる予定です。内容については6月22日の記事で少し紹介しています。また、アマゾンのページでも、今回は内容紹介文を多めに盛り込んでいただきました。興味のある方はぜひ、書店の店頭で手に取ってご覧いただければ幸いです。

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今月6日に刊行された『歴史群像』誌の売れ行きもかなり良いとのことで、付録ゲーム2点と本誌記事1本を担当させていただいた者として嬉しく思っています。付録ゲームについては、過去にウォーゲームやシミュレーション・ゲームをプレイされていた(けれどもずいぶん前に離れてしまった)という方や、こういうゲームそのものに初めて接する方からも「面白い」という反響をいただき、今までのゲームデザイン経験とは違う種類の感慨にひたっているところです。

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上はアマゾンの「雑誌ベストセラー」ランキング、7月7日17時54分の状況。この時点で、あらゆる雑誌の中で43位。女性ファッション誌をはじめメジャーな雑誌は桁違いの部数を発行していますが、その中で善戦と言えるのでは。

国際通信社さんより来月発売予定の『コマンド・マガジン』第106号において、『歴史群像』誌の付録ゲーム「ミッドウェー海戦」と「日本海海戦」に関する話題を中心とした私のインタビュー記事が掲載される予定で、今日そのゲラのチェックをしました。今回は、その記事の内容と重ならない範囲で、付録ゲーム2点についてのデザイナーズ・ノート的な話を少し書いてみようと思います。

ゲーム2点の企画案が固まり、デザイン作業をスタートした時点で、私がまず心がけたのは「既存のウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲームの枠組みをいったん全部捨てて考える」ことでした。私がゲームを始めた頃のワクワクした感情を思い返してみると、興味をかき立てられたのは「ウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲーム」という「カテゴリー」ではなく、目の前にある個別のゲーム群でした。

当時の記憶をひもといた時、私がまず思い出すのは「アバロンヒルゲーム」という言葉です。ウォーゲームでもシミュレーションゲームでもなく「アバロンヒルゲーム」。中学生になるまで、いろんなゲームを楽しんできた私にとって、この「アバロンヒル」のゲーム群は、それまで自分の知っていたどのゲームとも違っている一方で、ずっと「こういうゲームがあったらいいな」と思っていた内容を備えており、私は夢中になって遊びました。

今回、『歴史群像』誌に「ミッドウェー海戦」と「日本海海戦」のゲームが付くとの情報を耳にされた既存のウォーゲーマーあるいはシミュレーション・ゲーマーの方は、おそらく「ミッドウェー海戦と日本海海戦のウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲーム」を私がデザインしたと理解されたのだと思います。しかし、私は今回のデザイン作業において、既に「固定観念」や「既成概念」、「先入観」として出来上がってしまっている「ウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲーム的なアプローチ」は、敢えて捨てるのが最善の道だと考えました。

一般に「シミュレーション・ゲーム」といえば、ヘクスのマップ、ユニット、ターン、スタック、といった「お約束の要素」で構成され、既にその世界に馴染んでいる人には「居心地のいい世界」ですが、それが外部から見てどう映っているか、と考えた時、必ずしもポジティブな要素だけとは言えないように思われます。それゆえ、今回のデザインでは敢えてこれらの用語や概念を「使わない」と決め、『歴史群像』という雑誌の読者層を占める幅広い人が、初めて目にしても楽しめる「ボードゲーム」になるよう、ルールの構築を進めていきました。

もちろん、実際にプレイされた方はおわかりの通り、サイコロを振って判定表を参照したり、チットを引いて何かを判定する、という「手法」は、シミュレーション・ゲームの世界でも広く使われているテクニックです。従って、「ウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲーム的なアプローチ」が完全に排除されたかといえば、システム的側面から見れば、そうではないとも言えるでしょう。

ただし、ベテランのウォーゲーマーあるいはシミュレーション・ゲーマーの方が、この2つの付録ゲームをシステム的側面からのみ分析し、既存の類似テーマのウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲームとの比較で論じたり、優劣をつけるような思考をされているとしたら、それは「非常にもったいないこと」だと思います。そういう「固定観念」や「既成概念」、「先入観」によって、逆に見えなくなってしまう点が確かに存在すると思うからです。というよりも、そこで「見えなくなってしまう点」こそ、私がこのゲームのデザインで目指した目標である可能性が高いように思います。

私がこのゲームを始めた頃は、模型雑誌『ホビージャパン』誌に掲載される「アバロンヒルゲーム」の広告を眺めているだけで、時間が過ぎるのを忘れるほどでしたが、例えば初期のアバロンヒル社のゲーム(下の例は“D-Day”)を見ると、箱に次のような謳い文句が記されているのを確認できます。

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“Now YOU Change World War II History in this realistic tournament GAME by Avalon Hill”
(今、君はこのゲームで第二次世界大戦の歴史を変えることができる)
※画像はBoardGameGeekより転載

この部分については「今、君はどこそこの戦場で何々軍の軍勢を指揮し…」などいくつかのバージョンありますが、当時の私にとって何より魅力的だったのは、システムが何と同じだとかいう「形式」や「手法」ではなく、ダイナミックなゲーム展開を通じて「指揮官による決断の醍醐味」をプレイヤーに味わわせるという、ゲーム制作のコンセプトそのものでした。それと同じことを、今回の『歴史群像』誌付録「ミッドウェー海戦」および「日本海海戦」で行おうと考えたわけです。「今(Now)、君(You)はミッドウェー海戦あるいは日本海海戦の戦場で艦橋に立ち、部下は君の決断を待っているぞ」と。

この2つのゲームが入っているパッケージに、なぜウォーゲームでもシミュレーション・ゲームでもなく「ボードゲーム」という文字が入っているのか、これで少しおわかりいただけたかと思います。ふつうのボードゲームから、ある目的のために進化・特化したものが「ウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲーム」だとするなら、いったん最初の出発点(原点)まで引き返した上で、現在の私が見て最も適当と思われる手法を用いて、ウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲームとは違う「ボードゲーム」をデザインしました。

前記した「今回の目的地」に至るまでのルートは、部分的には既存の「ウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲーム」と重なってはいますが、あくまで「そう見えるだけ」であって、目的地はまったく異なっており、ルート自体も新たに設定し直した道を進んでいます。

この道を進んだ結果、きちんと最初に意図した通りに「今回の目的地」に到達できるのか。それは発売からわずか10日ほどしか経過していない今の時点ではわかりませんが、ぜひベテランのウォーゲーマーあるいはシミュレーション・ゲーマーの方にも、見かけ上のシステムの類似等から連想される「固定観念」や「既成概念」、「先入観」をいったん捨てていただき、フラットな気持ちでこの2つの「ボードゲーム」を遊んでいただければ、と思います。

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2012年7月6日 [ミッドウェー/日本海海戦]

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ご存知の方も多いかと思いますが、本日(7月6日)、『歴史群像』誌の最新号が、学研パブリッシングさんより発売されました。1992年の同誌創刊から、今年で創刊20周年の記念イベントということで、一冊のほとんどの記事が帝国海軍に関連する内容で占められた上、2人用の「ミッドウェー海戦」と1人用の「日本海海戦」という2つの帝国海軍ものボードゲームが、厚紙打ち抜き駒付きで収録されているという、超豪華仕様です。

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同誌の目次。特集だけでなく、西洋戦史や教範、戦国のお城や水軍、戦史関連の料理紹介まで、まさに海軍づくし。特に巻頭カラーのCG彩色企画は圧巻! 全9ページですが、初めて見るような鮮烈なイメージばかりで、見開きの「最終艤装中の戦艦『大和』」は大型のポスターにしてもらいたいと思うほどの仕上がり。一人一人の作業員が、今にも動き出しそうな臨場感。

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こちらは今回の私の担当記事「旅順港奇襲作戦の蹉跌」。日露戦争本では軽くスルーされることの多い、開戦劈頭の旅順港への奇襲攻撃とその背景がテーマです。東郷平八郎の指揮とは、実際にはどのようなものであったのか?

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付録ゲームについては、既に以前の記事で何度もご紹介していますが、いよいよ皆さんに遊んでいただける日が来ました。『歴史群像』最新号は、税込み価格1150円、全国の書店で発売中です。

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2012年6月15日 [ミッドウェー/日本海海戦]

学研パブリッシング『歴史群像』誌次号(2012年8月号)付録ゲームのコマシートの見本品が出来上がってきました。

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打ち抜きの刃がくっきり刻まれた、立派なカウンターシートです! 日本でもアメリカでも、コマが厚紙打抜きであるか否かによって、ゲームの売れ行き(つまり顧客満足度)は1桁、あるいは物によっては2桁も変わるので、この仕様で出していただけるというのは本当にありがたいことです。厚紙の厚さは、コストの関係上それほど分厚いものにはできなかったもようですが、プレイの実用性には差し支えない範囲だろうと思います。

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赤で印刷されている艦艇の名前など、もう少しクッキリさせた方がよいと思われる点がいくつかあったので、修正を施しました。上は、修正後のデータの画像見本です。

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こちらはオモテ紙の最終版。サイコロの展開図は、某お菓子の箱をはじめ、いろいろ研究した上で作りました。

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発売日の7月6日まで、あと3週間(21日)となりました。本誌と合わせて、付録ゲームの方もぜひ楽しみにしていてください。
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2012年6月9日 [ミッドウェー/日本海海戦]

5月末からこの週末まで、諸々の作業が忙しくてブログの更新が滞ってしまいました。『歴史群像』誌次号担当記事の「旅順奇襲攻撃と東郷平八郎」執筆、付録ゲーム「ミッドウェー海戦」&「日本海海戦」制作、そして来月発売予定のソフトカバー単行本(テーマは太平洋戦争です)の校正が、いずれも昨日までに完了または山場を越え、今日は久しぶりに一息ついたところです。

付録ゲームの2つは、予告段階でかなりの反響があったようで(ありがたいことです)、1か月後に現物をお届けするのが楽しみです。ちなみに、ゲームの体裁はビニール袋(たぶんジップロックではないと思う…)にオモテ紙(ジップ版ゲームによく入っている厚紙製の表紙)と、表裏両面カラー印刷のゲームマップ(少し前に付録で付いた「戦艦ビスマルクの彩色ポスター」と同じサイズ)、ほぼA5サイズのルールブック1冊(32ページで表紙はカラー、本文はモノクロ)、そして厚紙打ち抜きのコマシート1枚(120個片面カラー印刷、コマのサイズは12.5ミリより少しだけ大きな15ミリ角)が封入される仕様です。

私の感覚では、このゲーム単体でも予価1150円(税込)の価値はあるというくらいの豪華仕様です。ちなみに、厚紙のオモテ紙には、サイコロが手元に無いという人のために、ペーパークラフトで自作するための2センチ角のサイコロの展開図も印刷されます。

ルールブック本文の構成は、「ミッドウェー海戦」のルールが14ページ、「日本海海戦」のルールが11ページ、「ミッドウェー海戦」のプレイの実例(リプレイ)記事が6ページ、コマシートの一覧(紛失した場合などの参考にするため)が1ページで、表2と表3にそれぞれ目次と制作ノート、クレジットが入ります。ボードゲームが初めての人でも苦労なくルールをマスターできるよう、画像をたっぷり使って、工夫して制作しました。

以下の写真は、「ミッドウェー海戦」のリプレイ記事を書いた時のプレイの光景です。オモテ紙のデザインも月曜には確定しますので、決まり次第ここで見本画像を公開いたします。

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2012年5月25日 [ミッドウェー/日本海海戦]

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学研パブリッシング『歴史群像』誌の次号付録ゲーム「ミッドウェー海戦」のマップがほぼ完成です。日米両軍の空母の精密な上面図のイラストは、別の方が描かれたものをはめ込んでデザインしましたが、ミッドウェー海戦当時の塗装や艤装になっているか、専門家の方による監修を経ており、正確さは「お墨付き」です。

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日本軍の空母4隻。甲板のカラーリングがめちゃくちゃ派手ですね(笑)。この塗装からも、よく言われる「油断」や「驕慢」という言葉を連想してしまいます。

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対して、アメリカ軍の空母は不気味なほど地味。実際の海の色は、このゲームの背景より濃いので、日本軍の空母に比べると圧倒的に見つけにくかったでしょう。

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ミッドウェー島。「海水を真水に変換する装置」は地図に入っていません(笑)。

発売まであと一か月と少しとなりましたが、ぜひ楽しみにしていてください。
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2012年5月21日 [ミッドウェー/日本海海戦]

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先週から今週にかけて、雑誌『歴史群像』次号の付録ゲーム「ミッドウェー海戦」「日本海海戦」の仕上げ作業と、同じく次号の担当記事「東郷平八郎と旅順港奇襲作戦」の執筆を行っています。ゲームのルールは完成し、マップとコマ、ルールブックの制作を進めているところですが、「日本海海戦」のマップがほぼ完成しましたので、少しだけご紹介します。

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マップのサイズは 499ミリ x 656ミリで、以前の付録の彩色ポスターと同じです。シミュレーション・ゲームの「ハーフサイズ・マップ」が 420ミリ x 594ミリなので、それより少しだけ大きいサイズです。

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「距離、6400!」NHK『坂の上の雲』に登場した、時計のような「距離表示板?」もあしらってみました。

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オプション・ルールで用いる東郷平八郎コマ。プレイヤーが東郷提督の役を演じるので、被弾時の負傷が重なって戦死する(確率はかなり低いですがゼロではありません)とゲームは即座に終了し、プレイヤーは文字通り「サドンデス負け」となります。

担当記事の「東郷平八郎と旅順港奇襲作戦」は、日露戦争開戦劈頭の、水雷艇と主力艦によるロシア太平洋艦隊(通称旅順艦隊)への「先制第一撃(とその失敗)」がテーマです。

日本で出版されている日露戦争の書物では、奇襲攻撃があった事実だけを軽く述べるか、「ロシア海軍に大きなショックを与えた」という日本側に都合の良い部分にのみ目を向けるかという扱いが多いように思えます。しかし、水雷艇隊の攻撃は明らかな事前の準備不足と目標不徹底による失敗であり、その後の主力艦による攻撃も「ロシア側が意気消沈している」という第3戦隊参謀の(結果として誤った)報告に基づいて行われたものの、奇襲による旅順艦隊の撃滅という目的を達成する最大のチャンスを逃してしまうこととなりました。

サッカーで言えば、キックオフ直後にキーパーと1対1になるチャンスを掴みながら、ミスキックで得点し損ねたようなもので、その後の三次にわたる閉塞作戦の失敗と乃木第3軍による死屍累々の旅順総攻撃を考えるなら、緒戦の攻撃不発は「連合艦隊司令長官の重大な失策」とも言えるわけですが、今まで目にした文献では、旅順奇襲攻撃における東郷の采配を「失策」と捉える視点は皆無でした。

ただ、私は別に「東郷嫌い」というわけではないので、ことさら「東郷批判」という文脈で書くつもりはありません。今まで私が書いてきた記事と同様、特定の人物を神格化したり不自然に持ち上げることはせず、不必要に貶したりすることもせず、「実際に何があったのか」を様々な角度から分析し、最高意思決定者としての東郷平八郎の役割と、旅順奇襲作戦が事実上の「失敗」に至った経緯・原因を、私なりに読み解く記事にするつもりです。


おまけ

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写りの悪いUFOのようですが、今朝寝室で撮影しました。紙にボールペンで小さい穴を空けて、そこを通過した太陽の光を別の紙に映したもの。ちゃんと輪っかになっているのが不思議。
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2012年5月12日 [ミッドウェー/日本海海戦]

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今週月曜日、雑誌『歴史群像』最新号(2012年6月号)が発売されました。今号の私の担当記事は「シリア紛争史」。第二次大戦後のシリア独立から、父ハーフィズ・アサド体制の形成、第四次中東戦争時のゴラン高原での戦車戦、そして次男バッシャールへの権力継承と、今なお続くシリア反体制派の闘争などを、わかりやすく解説しています。

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現在シリアでは首都ダマスカスで爆弾テロが発生するなど、再び緊迫した状況に置かれていますが、日々のニュースを見聞きする際、その背景と併せて理解する一助として、今回の記事を活用していただければ幸いです。


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さて、本誌を購入された方はお気づきかと思いますが、『歴史群像』誌の次号(7月6日発売の8月号)には、創刊20周年記念の特別付録として、戦史をテーマにしたボードゲームが収録されます。ゲームは、2人用の「ミッドウェー海戦」と1人用(ソリテア)の「日本海海戦」の2つで、B2サイズのフルカラーマップ(両面印刷でそれぞれのゲーム用のマップが表と裏に印刷されます)と厚紙打ち抜きのコマ120個、48ページの別冊ルールブックという、ゲーム業界の感覚から言うとかなり思い切った豪華仕様(笑)です。ちなみにコマのサイズは、いつもの12.5ミリではなく、ほんの少しだけ大きくした15ミリ角となっています。

ミッドウェー海戦」と「日本海海戦」のゲームデザインは、私が担当させていただきました。既にシミュレーション・ゲーム/ウォーゲームに「免疫」のある人ではなく、一般の読者に遊んでもらうためのゲームということで、今回のデザインに際しては「ユニット」や「ヘクスマップ」などの「シミュレーション・ゲームの常識」をいったん捨て、「歴史ボードゲーム」というコンセプトで全体の構成を組み立てることにしました。

ただ、デザイン上の目標そのものは、私がいつもシミュレーション・ゲームのデザインで目指すのと共通する方向に据えることにしました。具体的に言うと、戦史の経過をトレースするのでなく、当時の両軍指揮官が感じたジレンマや焦り、戦果拡大への誘惑などをプレイを通じて味わえる素材を提供するという「鈴木銀一郎イズム」のコンセプトです。

今回のゲーム制作で一番重視したポイントは、なるべくわかりやすいルールで「ゲーム」の対戦を行いつつ、戦史の結果を左右した「決断の醍醐味」をプレイヤーが味わえるようにすることでした。「決断の醍醐味」とは、単に攻めるか待つか、右を攻めるか左を攻めるか、ということだけでなく、刻々と変化する全体の状況を常にブラウザの「再読み込み」のような形で再認識しつつ、重要な戦機の潮目を読み取り、待ちの姿勢から大きなアクションへと一気に転換する「タイミング」を自分で見極めて、部下に命令を下すことまで含んだ概念です。

ミッドウェー海戦」の場合、ゲームの手順は双方が交互に1回ずつ「アクション」を行う形で進行しますが、アクションの種類には「索敵(敵空母の位置情報の収集)」「艦上作業(いずれか一隻の空母の艦載機を「着艦」から「整備・装弾」を経て「発進準備」へと1マス進める)」「航空隊の出撃」「敵空母の攻撃」「強制帰還」「(自軍空母の)修理の試み」「(敵空母の)誘爆判定」の7種類があり、相手の行動を読みつつ、自軍の行動は焦らずに慎重を期す必要があります。

ミッドウェー海戦」も「日本海海戦」も、今回はヘクスのマップを使っておらず、前者の場合は相互の艦隊または艦艇の位置関係という要素をゲームから除外しています。言い換えれば、各プレイヤーは相手側の空母を「発見」したか否かという点のみに意識を集中し、索敵行動は「索敵チット」と呼ばれるコマをカップからランダムに1個引くことで進展します。個々の「索敵チット」には、双方の空母名と「情報の確度」が印刷されていますが、連合軍の情報面での優位を再現するため、日本軍の空母2隻が書かれたチットが一定数含まれ、また日本軍がミッドウェーの米軍航空基地に一定の打撃を与えた時点で、日本軍の不利を若干解消できる「索敵チット」がカップに追加で投入されます。

索敵が不十分(目標空母名が記された「確度Aの索敵チット」が少ない状態)で攻撃を仕掛けても、肝心の空母を発見できずに空振りに終わり、貴重な手番を浪費してしまう(帰還した航空隊は「艦上作業」で1マスずつ進めないと再出撃不可)可能性が高くなります。かといって、十分な「索敵チット」が揃うまで待っていたのでは、敵に先手を取られて航空隊を積んだ空母を炎上させられる恐れもあります。大胆さと慎重さという相反する要素が、プレイヤーの「決断」には求められます。

敵空母への攻撃は、サイコロで判定される敵の対空砲火(1回の攻撃につき2回)をくぐり抜けた航空隊によって実行され、目標空母の被弾数もサイコロと判定表で判定します。各空母は、被弾数の累積によって「小破」「中破」「大破」「沈没」となりますが、米軍ではヨークタウンが他の空母2隻(エンタープライズ、ホーネット)よりも被弾に弱く設定してあり、日本側は赤城・加賀よりも飛龍・蒼龍がほんのわずかに弱くなっています。「大破」の状態になれば、相手側はアクションで「誘爆判定」を選ぶことができ、そのサイコロ判定で被弾数が追加されれば「沈没」となります。

日本軍プレイヤーがゲームに勝つためには、敵空母に損害を与えるだけでなく、ミッドウェーの基地にも大打撃を与えて、陸軍部隊の上陸が可能な状態にしなくてはなりません。これは、連合艦隊司令部と軍令部の作戦目標をめぐる不統一を再現しています。また、日本側は複数の空母に搭載されている航空隊でグループを編成して敵空母を攻撃できる利点を有していますが、1回のアクションで艦上作業させられるのは1隻の空母の航空隊のみなので、残りの空母は「発進準備」状態で待機しなくてはなりません。そして、航空隊が敵空母を発見して攻撃を行う際、目標の空母に「発進準備」の航空隊がいると、誘爆による被弾数増加という修正が発生するので、史実における「雷爆換装」のような予想もしなかった惨劇が甲板上で発生する可能性があります。

日本海海戦」の方は、ゲーム最初の「敵前大回頭ステージ」と計5回の「砲撃戦ステージ」から成り、プレイヤーは連合艦隊司令長官・東郷平八郎の役割を演じます。「敵前大回頭ステージ」では、まず戦場の対馬周辺海域における「波の高さ」をサイコロで判定し(「浪高シ」「浪ヤヤ高シ」「浪低シ」の3種類)、続いて敵のバルチック艦隊からどれだけの距離(4種類)で連合艦隊を「回頭」させるか決定した後、その距離に応じた「(日本側の)損害判定」を行います。この時、損害の出方は敵との距離と「波の高さ」によって変動します(距離が遠いより近い方が損害が出やすく、また波が高いより低い方が損害が出やすい)。

各「砲撃戦ステージ」では、日本海軍の艦艇(三笠、敷島、富士、朝日、春日、日進の計6隻)が、ロシア海軍バルチック艦隊の艦艇(スワロフ、アレクサンドルIII世、ボロジノ、アリョール、オスラビア、ナワリン、シソイ・ヴェリキー、ニコライI世の計8隻)の間での砲撃戦を実行します。日本軍の砲撃は、艦艇ごとに目標を決めてサイコロを振り、砲撃判定表で損害を判定しますが、日本軍の損害(ロシア軍の判定)はサイコロではなく、一定数の「日本軍損害チット(被弾した艦名または損害無しの表示)」をカップからランダムに引いて判定します。このチット数は、艦隊間の距離と波の高さによって変動しますが、旗艦スワロフが沈没すれば、日本軍が多少有利になる修正(損害無しのチットを2個追加)が加えられます。

連合艦隊とバルチック艦隊の距離は、1回の砲撃戦ステージが終わるごとに、プレイヤーが一段階のみ調整できます。このように、プレイヤーは波の高さと敵艦隊との距離、連合艦隊とバルチック艦隊の被弾状況を見極めながら、艦隊間の距離を調節し、自軍の損害を抑えつつ、バルチック艦隊に与える損害を最大化するよう「決断」を繰り返していきます。

両ゲームとも、私がプロトタイプをデザインした後、日本海軍の戦史に造詣の深い堀場わたるさんと松谷健三さんに横浜で(秘密裏に)プレイテストを繰り返していただき、ゲーム自体のディヴェロップと、ゲーム内の処理を歴史的事実に整合させる作業を地道に進めてきました(これを読んで、少し安心された方も多いかと思います・笑)。艦艇ごとの能力や耐久力のちょっとした違いに、史実における差異を反映させるよう心がけましたので、テーマとなっている二つの戦いについての知識が深い人にも、満足していただけるゲームになったのではないかと思います。

現在、両ゲームとも最終仕上げの段階に入っていますが、1回のプレイは「ミッドウェー海戦」が30分から1時間、「日本海海戦」の方は慣れれば15分くらいで終了する形になっています。発売まで2か月となりましたが、ぜひ期待していてください。
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