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2011年9月24日 [その他(戦史研究関係)]

今週は、シックス・アングルズ別冊第8号『東方への突撃』のデータを完成させて印刷所に送付した後、雑誌『歴史群像』誌次号の担当記事「アフガニスタン紛争 2001〜2011(後編)」の執筆に没頭しています。記事の表題が示す通り、今回の記事は前後編の二部構成ですが、実はちょうど10年前の2001年にも、アフガニスタン紛争をテーマとする記事を同誌に書いており、これを合わせて考えると三部構成と見ることも可能です。

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右が今月発売の第109号、左が2001年3月に発売された第46号ですが、後者の号に最初の「アフガニスタン紛争」が掲載されています。

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記事の内容は、1979年に開始されたソ連軍のアフガニスタン侵攻がメインで、紛争前史となるアフガニスタンの歴史と文化および民族的状況、そして1989年にソ連軍が撤退した後に始まったムジャヒディン(イスラム戦士)同士の内戦を経て、パキスタンに後押しされた「イスラム神学生」タリバンが新たな支配者として同国に君臨するまでを描いています。

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また、記事の最後には、アフガニスタンでの対ソ戦で「共闘関係」にあったアメリカとウサマ・ビンラディン(ムジャヒディン幹部の一人)が、1991年の湾岸戦争を機に敵対関係へと転じた経過や、タリバンの指導者オマルが「古き良きイスラム社会への回帰」という志を同じくするビンラディンを「客人」として遇し、同国への滞在を許していた状況なども説明しています。

この号の発売からちょうど半年後の2001年9月に「9・11事件」が発生するわけですが、この記事をお読みになっていた方は、アメリカがテロの首謀者と断定したビンラディンとは一体何者で、どんな思想を持ち、なぜアラビア半島から遠く離れたアフガニスタンに反米活動の拠点を築いていたのかを、即座に理解できたのではないかと思います。

10年前に書いた記事の最後を、私は次のような文で締めくくりました。

 二十一世紀を迎えた今もなお、終わることのない戦乱の日々を過ごすアフガンの民。彼らにとって、一九七九年のクリスマスは、祖国を破滅へと導くきっかけとなった、呪うべき暗黒時代の幕開けだったのである。


あれから10年、アフガニスタンでの戦火は今なお絶えることなく、人々は米軍の無人機による誤爆やタリバン勢力による仕掛け爆弾(即製爆発装置=IED)の炸裂に怯えながら日々の暮らしを送らねばならない境遇に置かれ続けています。そして、アメリカ軍が予定通りに2014年に完全撤退した後、かつてのソ連軍撤退後と同様の内戦が、再び同国で発生する可能性も、きわめて高いと思われます。

戦史や現代紛争史の研究という仕事をする時、既に決着がついた「過去の戦い」について書く場合よりも、まだ事態が収束していない、現在進行中の事象について書く場合の方が、やはり精神的に重たいものがあります。その中でも、アフガニスタンの場合は、同国内の個人や組織が対外戦争を始める意図を持っていたわけではないにもかかわらず、周辺諸外国の利害や思惑に翻弄される形で、30年以上にわたって戦乱に苦しんでいるわけで、ドライな分析の対象にするには相当に重いテーマです。

アフガニスタン国民にとって、現在進行中の「アフガニスタン紛争」とはどんな意味を持ち、彼らはどんな形でこの紛争が収束することを願っているのか。紛争の当事者である「アメリカの視点」「北部同盟(国内の反タリバン勢力)の視点」「タリバンの視点」「アルカーイダの視点」だけでなく、記事の最後では「アフガニスタンの一般市民の視点」も織り交ぜて、この紛争に光を当てる形で執筆を進めています。『歴史群像』次号(第110号)は、11月5日発売予定です。


《追記》
シックス・アングルズ別冊第8号『東方への突撃』と拙著『宿命の「バルバロッサ作戦」』のスペシャル・コンボ・オファーですが、5セットの枠で募集しましたところ、今日までに計8セットのご注文をいただき、本の在庫が無くなりましたので、募集を締め切らせていただきます。ご注文いただいた方、どうもありがとうございます。
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コメント 3

陽だまりの樹

>ドライな分析の対象にするには相当に重いテーマです。
心中お察しいたします。
でも、『伝える』作業があるからこそ、復興や進歩が成り立つのだと思います。

アフガンとは雲泥の差とはいえ日本もこの先は過酷なようです。
震災後、繰り返された心地よいフレーズとは異なる形ででも
『日本は一つ』化して備えの体制に移行していくのでしょうか。

by 陽だまりの樹 (2011-10-04 21:34) 

Mas-Yamazaki

陽だまりの樹さま:コメントありがとうございます。ご指摘のとおり日本国内も以前より厳しい状況に置かれていますが、自衛隊はじめ復興に尽力されている方々も大勢おられますし、少しずつでも被災地の生活環境が改善していくことを願っています。
by Mas-Yamazaki (2011-10-06 22:46) 

陽だまりの樹

アフガンやアフリカの悲劇的な状況の原因については、
社会の『伝える』機能の破壊に起因して、部族レベルで、
社会的目的意識が欠落した場当たり的意思決定の
日常的ループに一因が、などと月並みに考えていました。

ある意味、山崎さんの記事のような客観的な知識こそが、
今のアフガンの人たちの自立的意思決定のきっかけとなる
真に必要な起爆剤的情報ツールなのかも、と思いました。

全然関係ないですが(というか本題でした)、復刊系で
図説・英国の帆船軍艦が復刻されました。旧版当時は
ホンブロワーやシャープ?の潮気が一味増して興奮しました。
ラミジはトム・クルーズ主演でお願いいたします。

by 陽だまりの樹 (2011-10-08 10:55) 

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