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2012年2月27日 [その他(戦史研究関係)]

今日は最近入手した本とゲームの紹介です。どちらも、個人的に(良い意味で)「やられた!」感がきわめて大きい著作物でした。

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まず、本の方は石川明人さんの『戦争は人間的な営みである −戦争文化試論』(並木書房)。著者の石川氏は北海道大学で助教をしておられる方で、ご専門は宗教学とのこと。序章を含め全九章で構成されていますが、その各章のタイトルは以下の通りです。

序章 戦争は人間的な営みである
第一章 戦争のなかの矛盾、戦慄、魅惑
第二章 愛と希望が戦争を支えている
第三章 兵器という魅力的な道具
第四章 軍人もまた人間である
第五章 「憲法九条」も戦争文化の一部である
第六章 人間を問うものとしての「戦略」
第七章 その暴力は平和の手段かもしれない
第八章 平和とは俗の極みである

私は、この本の存在とその内容について、ツイッターでフォローしている野口健さんの紹介で知りましたが、正直「やられた!」とショックを受けました。実は、この本とかなりの部分で重なる内容の本の企画を、数年前に学研さんに提示し、歴史群像の前編集長らに相談していろいろとご意見をうかがったことがあったからです。

特に「戦争の内包するさまざまな魅力」「道具としての兵器への憧れ」「戦争の根底にあるのは『愛(Love)』」という項目は、私もぜひ本の骨格に据えたいと考えていた概念でした。しかし、石川さんによる本書を読み、自分が書いていたらここまで深く、包括的に「人間的な営みとしての戦争」を描くことができただろうか、と感じるところが多々あり、私が書きたかった諸々の要素をより明瞭な形で見事にまとめられた著者の石川さんに深い敬意を払いつつ、ここで紹介させていただこうと考えた次第です。

石川さんの『戦争は人間的な営みである −戦争文化試論』は、戦争という人類史の一側面を、倫理的・道徳的・政治的判断という「色眼鏡」を排した形で、ありのままに捉えようという試みです。世の中には、人の関心を惹くために、つまりお金儲けをするために、一般的な常識と衝突するような言葉をわざと使ったり、本のタイトルにあしらうことが少なくありませんが、本書のタイトルはそうした手法で「人を驚かせて注目を集める」ために付けられたのではなく、きわめて冷静かつ誠実に、文字通りの主張を著者がされているのだと私は確信しています。

社会的に重要な物事の意味や是非を考える際、せっかちに結論を出す前に、まず現実に起きている現象や事実を「ありのままに」捉えることが重要であることは、改めて言うまでもありません。しかし、倫理や道徳に基づく判断を下さず、捉えた現実の様相をありのままに記述すると、あたかも記述者がそれを肯定しているかのように理解して感情的に反発する人が、少なくないことも事実です。本書は、そうした反発を覚悟の上で、敢えて「戦争のありのままの姿を描こう」とした興味深い試みです。

太平洋戦争後の日本では、戦争について書く時に「戦争は愚かな行い」等の、切って捨てるような言い方で断罪するような「結論」を、お約束のように付記するやり方が一般的だったように思います。しかし、単に「愚か」というのが戦争に関する「結論」であるなら、現在戦争をしている国の人々は老人や子供も含めてみんな「愚か者」ということになってしまいます。私は、一見すると平和を愛好しているかに見えて、実は自らを高みに置いて戦争当事国の国民(ほとんどの場合はその国民自身も戦争を望んでなどいない)を見下す思考の傲慢さに気づいていない、こうした断罪型の戦争否定論には強い違和感を覚えます。

石川さんが本書の中で書かれている内容は、戦後の日本で支配的だった「戦争観」を根底から揺るがすものだと思いますが、戦争という人類の営みを長年研究し、100本以上の雑誌記事と10冊以上の著作にまとめてきた人間として、私は石川さんの見立てに強く同調・賛同します。戦争を無くす、というのは、どういうことを意味するのか。それを阻んでいるものとは、一体何なのか。こうした難しい問題について、安易に既存の結論に飛びつかず、また自分を高みに置いて何かを断罪するような態度をとらず、自分の頭で謙虚に考えることを厭わない方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

ちなみに「戦争と愛(Love)の関係」については、2009年10月22日のブログ記事(『CASSHERN』と『誰も守ってくれない』の映画評)で私の考えを述べています。以下に、その一部を抜粋して再録します。

私がこの映画を観ていちばん感銘を受けたのは、いわゆる「戦争」が無くならない理由のひとつが、人間の心にある「愛(Love)」なのではないか、という難しい(そして歓迎されない)問題を正面から取り上げている姿勢でした。現代の日本社会では、戦争というのは「悪い心を持った悪い人間」がするもので、みんなが心をきれいにすれば戦争はなくなる、といった「戦争観」が広く受け入れられており、その邪悪な戦争(War)の対極に崇高な愛(Love)が存在するかのような認識を公然と口にする人は、老若男女を問わず、少なくないようです。しかし、戦争を継続させる最大の動機が「愛する家族を守るため」あるいは「愛する家族を殺された恨みを晴らすため」であるとするなら、人間の崇高な「愛」の力が強ければ強いほど、戦争の根絶は望めないということになってしまいます。


最初の文庫『中東戦争全史』のあとがきでも少し書きましたが、戦争で家族を失った人間にとって、家族を殺した敵に「復讐する」という行為は、失った家族に対する「愛情の深さを証明する機会」に他なりません。その「愛情の深さを証明する機会」を捨てて、家族を殺した相手を「赦す」というのは、人間の精神にとってはきわめてハードルの高い行いです。周囲からは「お前は家族を失ったのに怒りの感情はないのか、この冷血漢が!」と罵られ、残された家族からは「あなたはどうして家族を殺したあいつと仲直りするの」と責められる。それでもなお、この映画の最後で主人公に語らせているように、敵を「赦す」愛(Agapee)を心に抱くことができれば、戦争をなくすという永遠のテーマにも解決の糸口が見えるかもしれませんが、それは修行僧の解脱にも匹敵するほどの難行にほかならないでしょう。我々のような平凡な人間には、不可能に近い要求です。




続いて、ゲームの方は中黒靖さんの『AFRIKA!』。第二次世界大戦期の北アフリカにおける激闘をコンパクトにまとめた作品です。

こちらは、同じようなコンセプトのゲームをデザインしていた… というわけでは全くなく、むしろ体裁やアートワークで「こういう切り口は考えもしなかった!」と意表を突かれた部分が多いという意味で「やられた!」と感じました。

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まず表紙。アート系映画のパンフレットを想わせるA4横という変わった体裁とシンプルなデザイン。しかし単に奇をてらったわけではなく、そこには深い意味が隠されていた…

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表1(表紙)と表4(裏表紙)を広げたところ。さらに横長のレイアウト。これを裏返すと…

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北アフリカのマップが! SA別冊第4号『砂漠のキツネ』も含め、この戦域はゲームマップが横に長く伸びた形にならざるを得ないので、マップレイアウトに頭を抱えるのですが、こういう処理法で華麗に解決されるとは。「参りました」と言わざるを得ません。

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ファランクス社などヨーロッパ製ゲームっぽい打ち抜き駒。デザインも欧州テイストで、なかなか良い感じです。英軍歩兵がブレンガンキャリアというのも渋い選択。

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ルールはA4横で2ページ。裏面は北アフリカ戦の簡単な解説とプレイの例、そしてデザイナーズ・ノート。

今月はいろいろとやることが多く、シックス・アングルズ別冊第9号『独ソ戦コレクション-2』の作業も遅れ気味なので、対戦プレイはしばらくお預けですが、機会を見つけてぜひ石田参謀長と遊んでみたいと思っています。

中黒さんがたっぷり楽しんで作られたことが、コンポーネントの端々から伝わってくる『AFRIKA!』は、来週末の3月10日(日)に大阪マーチャンダイズ・マート(OMMビル)で開催される「ゲームマーケット2013大阪」で発売される予定です。価格は500円で、刷り部数は多くない(シックス・アングルズよりもさらに少数らしい)とのことなので、関心のある方はぜひゲームマーケット大阪に足を運んで、現物をご覧になってください。


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