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2008年11月17日 [その他(戦史研究関係)]

 学研さんの歴史群像次号用記事「マーティン・ルーサー・キング」を無事に脱稿し、今週はシックス・アングルズ第12号「ドイツ中央軍集団」本誌製作の最終仕上げに没頭します。地図と駒、表紙まわりのデータは、既に印刷所に入稿しており、本誌とチャートのデータを来週頭に納品した後、学研M文庫の新刊用原稿の残りを仕上げるというのが、年内の予定です。2008年もいよいよ終盤ですが、気を抜かず全力で取り組みます。



 今回のキング牧師の原稿は、今まで何度か書いてきた人物評伝のひとつですが、雑誌の記事を書くときには毎回、例外なく、決められた枚数の枠内でテーマを描き切るのに四苦八苦し、書きたいけれど枚数の関係で泣く泣く割愛するエピソードも多数ありました。キング牧師の記事に関しても、本編で書けなかった興味深い材料はいろいろあり、せっかくこういう媒体(ブログ)があるので、その一部をご紹介しようと思います。

 わたしはしばしば疑問に思うのだ、教育ははたしてその目的を達成しつつあるのだろうかと。
 いわゆる教育のある人々の大多数は、論理的な、科学的な考え方をしていない。新聞、学校、論壇、教会すらも、多くの場合、偏見をまじえない客観的な真理というものを、われわれに提供しないのである。
 人間を宣伝の泥沼から救うこと、これこそ教育の主なる目的の一つだと、わたしは思う。教育は証拠をふるいにかけ、考察検討すること、虚偽から真理を、非現実から現実を、虚構から事実を弁別することを可能にさせるものでなくてはならない。
 教育の機能はしたがって、徹底的に思考することを教えることである。しかし、能力の養成をもって足れりとする教育は、社会にとって大きな脅威となる可能性がある。最も危険な犯罪者は、理性をもちながら、倫理性の全くない人間だといえるかも知れないのである。
 わたしたちは知性だけでは足りないということを心に留めねばならない。知性プラス品性──これこそ、真の教育のゴールである。全人教育は人に一つのことに集中する能力だけでなく、集中するだけの価値ある目的を与えるのである。幅の広い教育とはしたがって、人類が長い間に蓄積した知識のみならず、社会的存在としての蓄積された経験をも伝えるものである。
《リローン・ベネット(中村妙子訳)『マーティン・ルーサー・キング 非暴力への遍歴』新教出版社 pp38-39》

 上は、キング牧師自身による文章ですが、いつごろ書いたものだと思われますか? 実はこれ、彼がまだ19歳の時(1948年)に、当時通っていたモアハウス大学の学内新聞に寄せた「教育の目的」と題された一文からの抜粋なのです。個別の事例はあえて挙げませんが、ここ1~2年のうちに日本国内で表面化した、いろいろな社会問題を振り返ると、キングの「教育論」がひときわ意義深く思われる気がします。

 キングは決して「聖人君子」ではありませんでしたが、思考の深い、普遍的で大きな理念を備えた人物であったのは間違いないようです。シカゴでの勝利演説で、キングの功績についても少し触れたオバマ次期大統領(来年1月20日の正午に正式就任予定)は、はたして彼の後継者たりえるでしょうか。太平洋の西側から、新たな歴史のページを注視したいと思います。
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コメント 2

歴群読者

はじめまして。先日のNHK番組「その時歴史は動いた」で、キング師の「アイ・ハブ・ア・ドリーム」の演説を聞き、この人に関心を持ったところでした。いろんな意味で、タイムリーな歴史群像の記事を楽しみにしています。

キング師の教育論は、今でも全然、色あせてないですよね。やっぱり社会の基盤は、教育でしょうか。
by 歴群読者 (2008-11-18 14:50) 

Mas-Yamazaki

歴群読者さま: コメントありがとうございます。NHKの番組は、私も見ました(というか、私が記事で書いていた全体の構成と同じだったら困るなぁ、と思ってチェックしたのですが、だいじょうぶでした)。次号の企画としてのキング師の人物評伝を、歴史群像の編集長さんと相談したのは、大統領選挙の結果が出る前でしたが、もちろん次号が発売される直後の大統領就任式との時期的なシンクロも視野に入れた決断だったようです。

社会における教育の重要性については、すぐに私ができることは何もないので、歯がゆい思いをしているところですが、教育というのは未成年の子供や学生だけでなく、実はいわゆる「大人」が人生を通じて必要とし、自ら得るものだと私は考えています。なので、学校や教育機関だけに責任を負わせるのではなく、自分を含めた社会人を対象とした「教育」という観点から、浅学非才の私にも何か手伝いをできることはないものかと、今後も考えてみたいと思います(僭越を承知ではありますが)。
by Mas-Yamazaki (2008-11-23 00:01) 

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