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2010年2月4日 [その他(テレビ番組紹介)]

いつも同じ枕言葉になって恐縮ですが、今週も引き続き学研M文庫『ポーランド1939』の執筆に没頭する日々を送っています。当初の予定より、だいぶ長引いてしまっていますが、各国の利害と思惑が錯綜する複雑な外交史のパートを、なるべくわかりやすく、それでいて情報量の詰まった、読みやすい内容にまとめるために、時間を余計に費やしてしまいました。今は、軍事作戦のパートを執筆中で、学研さんのご厚意により締め切りを延ばしていただいたおかげで、完全に自分で納得のいく形に仕上げられると思います。発売は、4月か5月頃になるかと思いますが、興味のある方はぜひご期待ください。

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(画像はNHKホームページより)

さて、今までにも何度かこのブログでご紹介しているNHKの番組『プロフェッショナル』ですが、おとといの放送では、東京の地下鉄ダイヤを組む職人気質の会社員の方がとりあげられていました。ふだんは何気なく利用している鉄道ですが、混雑や遅延が少しでもゼロに近づくよう、現場の状況を絶えず観察して、5秒単位で時間調整を常に研究しているというのは、なかなか面白いストーリーでした。そして、ダイヤ改正の大詰めに、どうしてもダイヤを修正したい列車が見つかり、そのことを上司に報告すると「他にも変えるべきところがないか調べろ」と命じられ、修正箇所が次々と増えて、今回の改正に適用すべきか否か、というのが、番組のクライマックスでした。

残された時間が限られている中で、多数の列車についてダイヤをいじると、全体のバランスに予期せぬ影響が出る危険があり、また相互乗り入れしている他社にも迷惑がかかる恐れがある。いわゆる「テレビ番組」の構成上は、ここで主人公が「それでもやる、チャレンジする」と言えば盛り上がるのでしょうが、役職者でない今回の主役は、熟考の末に「今回は適用を見送り、次回の改正でより効果的な形に修正できるよう、調査と研究を続ける」という結論を出し、それを上司に報告するところでエンディングとなりました。

改めて述べるまでもなく、テレビ番組の制作に際しては、制作サイドがあらかじめ「自分たちに都合のいいストーリー」を作って、それを持って撮影現場に行き、ドキュメンタリーと謳いながらも、取材対象にその「ストーリー」に合った発言や行動をさせたり、取材対象には伝えずに編集段階でそうした「ストーリー」に合うよう話の流れを誘導する場合が少なくないようです。これは、民放に限らず、NHKでも事情は同じなようで、時おりネット記事で取材対象者がNHKに怒っているという話を目にすることがあります。

ただ、私が今まで一視聴者として観てきた経験から判断すると、この『プロフェッショナル』という番組については、そうした「ストーリーありき」の番組づくりをしていないような印象を受けます(あくまで主観ですが)。と言うのは、過去の番組において、ここは主人公にこういう言葉を言わせる、あるいは行動をとらせるだろう、と、無意識に予想した「テレビ番組の定石」のような展開から、ストンと外れるような意外なエンディングになる回が、けっこうあったと記憶しているからです。

災害救助用のロボット開発者の回では、クライマックスの大事な運用試験で、かんじんのロボットが故障して動かなくなってしまう。花火師の回では、クライマックスの大事な花火大会で、自分の作った「玉」ではなく、期待を寄せている弟子の作った「玉」を打ち上げて、大会を成功させる。こういった形のエンディングで、一本の番組を終わらせるというのは、非常に勇気が要ることだと思います。けれども、皆さんもよくご存知のとおり、歴史上の戦いを振り返ってみても、彼我の状況を見極めた上で下される「最善の決断」というのは、「勇敢に攻める」ことだけでなく、「守る」あるいは「退く」というものであった場合も少なくありませんでした。以前の記事でご紹介した、北京五輪での女子ソフトボールの上野投手の話を、少し思い出しました。

番組は、クライマックスの音楽が流れたところで終わりになりますが、取材された「プロフェッショナル」の方が手掛けておられる仕事は、当然そこで終わるわけではなく、今後もずっと続いていきます。そう考えれば、たまたまテレビで取材された時期の「大事な場面」で、「攻める」ことが正解であるとは限らず、状況を的確に見極めて「退却する」あるいは「譲る」といった決断を下すことが、長い目で見れば正解である場合も多々あるはずです。そういった意味では、無理に「主役が活躍して終わる」という、一般受けしやすいストーリーに取材対象を当てはめようとしていない(ように見える)この番組の姿勢は、一視聴者として好感が持てる点のひとつです。

いざという大事なところで、主役が「主役として(一般に)期待されるカッコイイ役柄」を演じていない。これは、一見すると「テレビ番組」として失敗作のようにも見え、おそらく一部のテレビ番組制作者は、上司や視聴者にそう思われることを恐れて、主役が主役らしく(カッコよく)見えるような「ストーリー」を作って、それに取材対象を合わせるという安易な方法に頼ってしまうのではないかと思います。しかし、少なくとも「その道で卓越した実績を残している職業人」という意味での「プロフェッショナル」を素材として扱うのであれば、そんな薄っぺらい「演出」に頼らなくても、実際にあったこと、起こっていることだけを、そのままの状態で取材した方が、説得力のある、従って視聴者にとっても見応えがあるような番組に仕上がるような気がします(あくまで局外者の想像ですが)。

番組では、レストランのオーナーシェフも何度か取り上げられていますが、彼らは全員、おいしい味を「作る」のではなく「素材の良さを活かす・本来のおいしさを引き出す」という姿勢で、料理を作っておられたと記憶しています。テレビ番組においても、制作サイドが取材対象に「敬意」を抱いて接しているかどうかというのは、観ていれば視聴者の側にも伝わってくるものですし、私が民放の番組にほとんど興味を持てないのは、題材や出演者に対する制作者の「敬意」が感じられないものが多いからです(もちろん例外もあります)。もうすぐ冬季五輪が開幕しますが、競技や競技者に対する「敬意」が制作サイドに存在するか否かという点で、やはり私は、人気芸能人の緩いコメントなどを混ぜて「味付け」してしまう民放よりも、素材重視のNHKの方で観ることになるだろうと思います。

残念ながら、番組のメイン司会者が「税金の無申告」という、明らかに「プロフェッショナル失格」の行為を行っていたこととも関連してか、この番組は今年の3月にいったんお休みとなるようですが、10月以降には再開予定とのことで、今後も私の知らない、あらゆる業種の「尊敬すべきプロフェッショナル」の方々を、紹介してもらいたいと思います。
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