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2010年10月24日 [その他(戦史研究関係)]

先週は、日曜日にNHKで放送された番組『貧者の兵器とロボット兵器 ~自爆将軍ハッカーニの戦争~』について書こうと思っていたのですが、ハードカバー本の執筆に熱中していたことと、田中泯によるナレーションの印象があまりにも強烈過ぎたせいで、こちらの更新を失念してしまいました。過去に執筆した現代紛争史関連の分析記事で、私も武装型プレデターなどの無人機について触れたことが何度かありますが、それにしても救いのない(番組の質ではなく、扱っているテーマの内容が)話でした。

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(画像はNHKホームページより)

兵士の消耗を避けるために、攻撃兵力を人間ではなく無人化するというのが米軍サイドの論理ですが、攻撃対象の反米武装勢力は相変わらず生身の人間ですから、一方的に無人の機械から爆撃され続けた人間が何を思い、その状況を打開するためにどういう行動をとろうとするのかは、心理学者でなくても想像可能だと思います。しかし、反米武装勢力が「唯一の有効な攻撃法」と考える手法(殉教攻撃、いわゆる自爆テロ)もまた、無人機の爆撃と同様、大勢の市民を無差別に殺傷することを避けることができないもので、結果として双方が戦いを続ける限り、市民の犠牲者が増大し続けることになります。

番組に登場した無人機部隊の米軍将校が「奴ら(タリバン)は、自分たちが絶対の正義だと信じているので、交渉を行うことができない。だから、殺すしかないのだ」と述べていましたが、いろいろな意味で現在のアフガニスタンで進行中の戦争、そして過去に繰り返されたいくつもの異文化間の戦争を象徴する言葉だと思いました。また、無人兵器の需要が将来有望な商業的「市場」となっており、数百社のメーカーが無人兵器を開発して、各国の軍に売り込んでいるというのも、現代の戦争に共通する一面を現しているようです。

30年後、あるいは50年後、現在アフガニスタンで行われている戦争が、どのような文脈で語られているのか。ある程度予想はつく気がしますが、もしかしたら我々が同時代に考えているよりもはるかに重大な事件として、歴史記述の中に位置づけられているかもしれません。



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さて、昨日帰国した妻がくれたおみやげの中に、物理的にも内容的にも「重たい」本が一冊入っていました。重量1.4キログラムもあるその本(そのため機内預けのトランクに入れられず、手荷物でキャビンに持ち込んでくれたとのこと)は、ベルリンの「ドイツ歴史博物館(DHM)」で現在開催中の『ヒトラーとドイツ人』という企画展の図録解説書でした。

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日本でも一部のニュースで紹介されたので、ご存知の方もおられるかと思いますが、この展覧会は戦後のドイツで初めて行われた、「ヒトラーと当時のドイツ国民の関係」について真正面から取り組もうという試みで、従来の「ヒトラー否定」という歴史認識を極力抑えて、実際に当時のドイツ国民とヒトラーの関係がどのようなものであったのかを、判断材料としての当時の物品展示などを通じて検証しています。ベルリンに住む妻の友人によると、同博物館は普段はガラガラなのに、今回の展示は連日超満員の盛況とのことで、入場した妻もビデオ上映の展示などは人が多すぎて観られなかったとのことでした。

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映画『意思の勝利』を撮影中の映画監督レニ・リーフェンシュタール。卓越した映像的才能に恵まれた彼女も、生まれた国と時代に翻弄され、数奇な人生を送ることになりました。少し前に、デジタル処理で画質を改善した同作品のDVDを購入して観ましたが、後日談を知らない当時のドイツ人にとっては「とても魅力的な作品」に思えたのだろう、という印象を受けました。

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当時のヒトラーとナチ党の価値判断基準に基づく「理想的なドイツの家族像」を表現した絵画作品。第二次大戦と美術品というテーマは、米独ソ三国の戦争中における名画争奪合戦も含めて、いずれ書いてみたいテーマの一つです。


東西冷戦時代の西ドイツおよび西側の欧米諸国では、第二次大戦中にソ連と戦った経験を持つドイツ軍の高官を味方につける必要性など、政治的・軍事的・経済的ないくつかの要因が重なって、「ヒトラーとナチ党」に戦争の負の側面を全て押し付け、相対的にドイツ国民やドイツ国防軍の責任追及を回避する形であの戦争を捉える視点が主流だったと思いますが、ヒトラーの死から65年が経ち、ようやく冷静に「ありのままの歴史」を直視する社会的風潮が形成されてきたということでしょうか。

私が現在執筆中のハードカバー本も、従来のいわゆる「ドイツ国防軍潔白論」的視点ではなく、新旧の資料を一から読み直して、可能な限りニュートラルな視点で、当時起こった出来事の実像に迫ろうという姿勢で執筆を進めています。後世の第三国に住む私には、ヒトラーやスターリンを悪者ないし無能な愚者として必要以上に悪く描かなくてはならない理由はないですし、例えばキエフ包囲戦前後のドイツ軍内部におけるハルダーとグデーリアンの感情的対立や、赤軍大粛清直前におけるトハチェフスキーとヴォロシーロフの権力闘争など、独ソ両軍内部の人間関係という側面についても、当時の事実関係をドライに書こうと試みています。

発売予定はまだ未定ですが、興味のある方はぜひご期待ください。
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