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2012年6月22日 [その他(戦史研究関係)]

今日は「6月22日」ということで、学研パブリッシングさんより来月出版される太平洋戦争のソフトカバー単行本について少し書きます(日付に関連した、何か違う話を期待されていた方、ごめんなさい)。

単行本表紙.jpg

本のタイトルは『侵略か、解放か!? 世界は「太平洋戦争」とどう向き合ったか』で、テーマは日本以外のそれぞれの国や地域の視点で、太平洋戦争の実像を「外側から」検証し直そうというものです。序章と全八章という構成で、各章の内容は以下の通りです。

序章 チャンドラ・ボースとインド独立運動
第一章 米英ソ中独 五大国の「太平洋戦争」
第二章 フランスとオランダの「太平洋戦争」(仏領インドシナ、蘭領東インド)
第三章 米英植民地群の「太平洋戦争」(英領ビルマ、マラヤ、ボルネオ、シンガポール、米領フィリピン)
第四章 泰と外蒙 東亜独立国の「太平洋戦争」(タイ、モンゴル)
第五章 豪加 英連邦諸国の「太平洋戦争」(オーストラリア、カナダ)
第六章 「大東亜共栄圏」の理想と現実
第七章 日本の敗北をにらんだ連合国の策動(国連の創設過程)
第八章 東南アジア植民地群の独立

これまで日本で刊行された数多くの太平洋戦争に関する文献は、日本を主体または「構図の中心」として描いていましたが、日本人の価値判断基準で「ドームの内側から」建物を眺めていたのでは、見えない要素も多いのではないか、というのが、この本の企画の出発点でした。また、各国ごとに太平洋戦争の前後の状況を記した歴史書も少なからずありますが、太平洋戦争という一つの出来事を「ドームの外側から眺める」視点で、横断的に各国の「太平洋戦争との関わり」を読み解いた本が見当たらないように思えました。

日本人は、歴史的に見て、価値判断基準の同質性や物事に取り組む際の勤勉さが大きな強みを発揮することが多々あり、昭和後期の目覚ましい経済発展も、こうした土壌に支えられていたと言えるかと思います。その一方で、もし日本人という「集団」の現状認識に錯誤や欠落があった場合、その事実に気付きにくく、また内心で気付いても「組織の調和」を乱すことを恐れて言い出せない、という風潮も根強く存在しています。そして、現状認識に隠れた錯誤や欠落を放置したまま、組織として、あるいは個人として、国家に掲げられた目標を「勤勉に」追求した場合、かえって勤勉さに重きを置かない国民よりも、悲劇的な事態を招いてしまうという事例も多々あったように見えます。

当時の日本政府や軍官僚たちが、それと気付かないままに陥ってしまった「現状認識に隠れた錯誤や欠落」の背景や原因を知るためには、「あの戦争は正しい戦争であった」とか「邪悪な戦争であった」というような、日本の立場から見た正邪の道徳的判断をいったん排した形で、当時の「情勢」をありのままに知る必要があると思います。そうした「ありのままの当時の情勢」と当時の日本政府や軍官僚の「現状認識」の落差を対比させることで、ようやく「あの時代の日本人の思考に、何が欠けていたのか」を知ることができるわけです。

学研さんのムック『決定版 太平洋戦争』シリーズ(全10巻)を読まれた人ならお気づきかと思いますが、この本は同シリーズで私が担当した原稿を基に、大幅に加筆修正し、テーマに合わせて再構成したものです。カナダ、アメリカ、オーストラリア、蘭印(インドネシア)、フィリピン、シンガポール、ボルネオ、マラヤ、タイ、仏印(ベトナム、ラオス、カンボジア)、ビルマ、インド、中国、モンゴル、ソ連と、日本の周囲をぐるっと一周する、大小それぞれの国(または地域)の内情と「目指す目標」そして「それを達成するための戦略」がどんなものであったかについて、わかりやすく解説しています。

本のテーマは太平洋戦争ですが、アジア諸国の太平洋戦争以前の略史も簡潔に説明しているので、それぞれの国の成り立ちについて知ることのできるコンパクトなガイドブックとしても使っていただけるかと思います。また、戦前・戦中に日本で出版されたアジア諸国・諸地域に関する文献も多数活用し、実際のところ「当時の日本人はアジアの各地域をどう見ていたのか」についても、「戦後の(軍国主義否定の)バイアス」を排した形で浮き彫りにしようと試みました。

予価は税込みで1575円です。今までとはちょっと違った視点からの「太平洋戦争」の研究書です。興味のある方は、ぜひ書店で手に取ってご覧ください。
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コメント 4

堀場

おお!
これは面白そうですね!

たしかに、この当時のことを日本の「外」から俯瞰したような日本語の書籍というのはなかったように思います。

私自身も、少し前から開戦前の日米外交に興味があり、ぼちぼちと調べたりしていたので、ちょうどいいタイミングでした。

ぜひ読ませていただきます!
by 堀場 (2012-06-22 19:23) 

上野 雅由

私の周囲には、主に50代以上の方で、「あの戦争で日本が欧米と戦った
おかげで東南アジアの国々は独立できたんだ!」と言う方が何人もいます
私はそうした一方的な発言に感情的に反発してきました。
しかし私の反発にも、そして恐らく、そうした発言をした方にも、確たる論拠があるわけではないと思います。
歴史を学ぶ時に、このような、価値観や主義/思想に偏りのない本を読むことはとても大切なことだと思います。
発売を心待ちにしております。
by 上野 雅由 (2012-06-23 03:21) 

Mas-Yamazaki

堀場さま:コメントありがとうございます。太平洋戦争を外側から見るということは、言い換えれば「太平洋戦争を世界史の文脈で読み直す」ということでもあります(実はこれも本のタイトル候補でした)。日本史の延長として「太平洋戦争」を読むことにも大きな意味があるとは思いますが、それとは別の視点を導入することで、わずかな種類の結論にパターン化してしまった「歴史解釈」の固定観念から脱却できるのでは、と思っています。ぜひご期待ください。
by Mas-Yamazaki (2012-06-28 23:08) 

Mas-Yamazaki

上野 雅由さま:コメントありがとうございます。本の中でも書いていますが、当時の日本軍の動きが戦後のアジア植民地の解放に役立ったという事実は部分的には存在しますが、それとは逆に「日本軍もまた植民地の宗主国と同様の振る舞いをした」事実も少なからず存在しています。

この本では、どちらか一方にのみ光を当てることはせず、事前に決めた結論に合う事実だけを拾うのではなく、事実そのものをまず先入観なく拾い集めた上で、それを並べて「実際には何が起こっていたのか」を浮き彫りにする手法をとっています。

何かしらの結論ありきでこの戦争を見る人からは、強い反発を受けるかもしれませんが、昭和40年代に生まれた我々の世代だからこそ書ける太平洋戦争の本というのもあるかと思いますし、従来とは異なる視点を多少は提供できたのではないかと考えています。ぜひご期待ください。
by Mas-Yamazaki (2012-06-28 23:16) 

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