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2005年10月4日 [バルジの戦い]

「バルジの戦い」のデザイナーズ・ノートを訳していて、
非常に興味深い一文を発見した。戦闘序列についてのところで、
デザイナーのダニー・パーカー氏は次のように述べている。

Although I took pains to produce an accurate Order of Battle,
this was not the matter that was crucial to the success
of the simulation. The crucial matter was the games
mechanics. Regardless of the accuracy of the Order of
Battle, without accurate game mechanics the rules
would not lead Players to employ their troops in a
historically accurate fashion.

「私は本ゲームで精密かつ正確な戦闘序列を作ろうと骨を折ったが、
それは決してシミュレーション・ゲームの本質的な価値を決める
ものではない。シミュレーション・ゲームの本質的な価値は、
ゲームシステムそのものによってしか生まれ得ない。もしゲーム
システムの出来が悪かったなら、戦闘序列が正確かどうかに関係
なく、プレイヤーは自軍部隊を歴史的に正しい形で運用すること
はできないからである」

少々皮肉めいた言い方をすれば、後に発表される「ザ・ラスト・
ギャンブル」の作者とは思えない言葉だが、これを読んだとき、
私はなぜ今の自分が、この「バルジの戦い(Dark December)」
をこれほど気に入ったのか、その理由がわかった気がした。
「バルジの戦い」のシステムは素っ気ないほどにシンプルだが、
プレイしてみると充分すぎるほど「歴史的に正しい」方向へと
プレイヤーを導いてくれる。日本版プロデューサーとしてだけ
ではなく、一デザイナーとしても大いに収穫を得ることができた。
簡潔なシステムでも、リアルなシミュレーションは可能なのだと。

私もかつては、精密かつ正確な戦闘序列作りに大きなエネルギー
を注いだ人間だが、紆余曲折を経て、やはり「シミュレーション・
ゲームの本質的な価値は、ゲームシステムそのものによってしか
生まれ得ない」ことを知るに至った。もちろん、戦闘序列の調査
は今でも大事だと思うし、ゲームを買う人の購入動機の1つでも
あるだろうから、今後も軽視するつもりはない。しかし、それに
よって得られる歴史的価値には、一定の限度があることも確かだ。

だから、パーカー氏がこのような(戦闘序列以外の部分での
歴史性を重視した)デザイン哲学を持っていた頃にデザインした
ゲームを、自分の手で装いも新たに皆さんの手許にお届けできる
ことに、あらためて大きな喜びを感じている次第である。


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コメント 3

ニャンオヤジ

山崎さん、こんにちは。
OBチャートやバリアントルールを眺めながらゲームの発売を心待ちにしております。
ちょうど今回戦闘序列についての話題が出ましたのでそれについてコメントさせてください。本作のOBチャートやリプレイ写真を見て古典的正統派作戦級ゲームという印象を受けました。もちろんオリジナルは1979年の作品ですから古典的なのは当たり前なのですが。何にそう感じたかというと戦車連隊の扱いについてです。例えば独装甲師団で言えば師団は戦車連隊1個と装甲擲弾兵連隊2個で表されます。師団の組織図で言えばまったく正しいしシミュレーションゲームでもそのように表されることは多いかと思います。しかしかつてSPI/HJから発売されていた「パットン第3軍」で用いられていた戦車部隊は大隊規模とするシステムの方が連隊級ゲームとして個人的にはリアリティを感じました。独軍で言えば装甲師団は戦車2個大隊を持つ機械化師団、装甲擲弾兵師団は1個戦車大隊を持つ機械化師団です。戦車連隊とは純粋に戦車のみで編成された大隊2個を有する部隊であり、それのみでは1個の戦闘単位としては存在しえず主に歩兵連隊の補助戦力として機能する、という「パットン第3軍」のシステムはリアリティを感じました。もっともシミュレーションゲームとは抽象化のゲームでありそのユニット分割が実態の組織編成を再現している必要はなく、例えばバルジの第1SS戦車連隊は強力な戦車部隊の支援を受けたパイパー戦闘団だ、と考えれば何ら不都合はないのですが、やはり戦車連隊が独立した強力なユニットとして存在するのは今風には違和感あるのかなぁ、と思いました。これが師団規模ゲームとなると師団は総合兵科なのでまったく悩む必要はないのですが、最近の連隊級ゲームがどのような処理を採用しているのか、山崎さんはどのように考えておられるのか、ちょっと関心を持った次第です。連隊規模ゲームでは歩兵=連隊、戦車=大隊として戦車は主にコラムシフト効果とすれば、バルジでもいくつか投入された独立重戦車大隊や重駆逐戦車大隊、米軍の独立戦車大隊を違和感なくゲームに反映させられるように思いますが如何でしょう。もっとも矛盾するようですが「Dark December」のOBチャートは余計な補助部隊がまったく存在せずいたってシンプルでプレイしやすさの点でかなり期待してもおります。と言いながらもいつの日か山崎オリジナル「バルジ」決定版というのもちょっと期待していたりします。
by ニャンオヤジ (2005-10-08 22:49) 

Mas-Yamazaki

こんにちは。ドイツ軍の装甲師団の運用についてですが、おっしゃる通り、大隊を装甲擲弾兵連隊に配属して運用する場合は少なくなかったようですし、また大隊や中隊を臨機応変に組み合わせて「戦闘団(カンプグルッペ)」で戦うことも多かったようです。私も、スターリングラード救出に向かった第6装甲師団について、昔の「スターリングラード・ポケット」では3個連隊のユニットにしていましたが、「パウルス第6軍」では史実の部隊運用を反映した4個戦闘団のユニットにしてあります。

ただ、バルジの戦いに限って言えば、ドイツ軍の装甲連隊の多くは分割されずに単体として運用されていたようです。例えば、第1SS装甲師団の場合、「パイパー戦闘団」「第1SS装甲擲弾兵連隊」「第2SS装甲擲弾兵連隊」の3つに分かれて行動しており、うちパイパー戦闘団だけがストゥーモン~ラ・グレイズ方面で退路を絶たれて包囲され、残りの装甲擲弾兵連隊が救出を試みていますが、失敗に終わりました(この、突出しすぎて敵に包囲される→補給切れで数ターンにわたって奮闘→敵ZOCへの退却で最後の1ステップを失って全滅、というパイパー戦闘団の足跡は、いかにも作戦級ウォーゲーム的です)。また、装甲教導師団の場合も、12月24日の時点で、第130装甲連隊はロシュフォール、第901装甲擲弾兵連隊はバストーニュ包囲、第902装甲擲弾兵連隊は両者の中間のサン・フーベルト(サン・ユベール)という形で、おおむね連隊ごとに展開しています。

なぜこうなったかといえば、おそらく戦場の特徴、つまり道路沿いでないと進撃できないという理由が大きかったものと思われます。ある程度の開豁地ならば戦術教義どおりの隊形で展開できますが、道路上を縦列で進撃するような場合は戦車を先頭に立てないと突破は不可能です。

少なくとも、私がこのゲームを何度もプレイしてみた限りでは、部隊運用に関して、特に違和感はありませんでした(というか、違和感を感じた部分は日本版改訂ルールとして収録しました)。ご指摘のとおり、このゲームには米軍の工兵部隊を除いて独立部隊の類が一切登場せず、また道路上の移動は常にスタックなしで行われるので、非常にプレイはスムーズに進みます(NAWシステムに近い感触です)。私が新たにデザインするまでもなく、パーカー氏の手になるこのゲームが(連隊級バルジの)決定版だと考えていますので、ぜひ楽しんでください。
by Mas-Yamazaki (2005-10-10 23:04) 

ニャンオヤジ

山崎さん、こんばんは。
丁寧な解説ありがとうございました。史実の運用と比較してもそう違和感のあるものではなかったのですね。東部戦線の大平原と部隊を密集運用できた西部戦線の違いでしょうか。私も書いた後考えてみて戦車を大隊にしたらゲームとしては煩雑になってしまうなぁ、と思い直しました。
もうすぐ発売とのことですので、商品の到着を楽しみに待っております。
by ニャンオヤジ (2005-10-11 20:48) 

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