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2005年12月31日 [モスクワ攻防戦]

2005年もいよいよ今日で終わりです。今年は、仕事面でもプライベート
でも大きな進展があり、私にとってものすごく充実した一年でした。
シックス・アングルズの刊行も、多少の遅延は生じたとはいえ、ほぼ
想定どおりに進めることができ、内容的にも満足のいくものでした。
ゲームをご購入いただいた皆様、いろいろなご意見をいただいた皆様、
ありがとうございました。来年も、より良いゲームをこの世界に生み出す
ため、ご助力のほどをよろしくお願いいたします。

さて、来年の予定ですが、現在製作中の「クルスク大戦車戦」を2月初旬
に出版した後、別冊第4弾「砂漠のキツネ(The Desert Fox)」の準備を
進めつつ、オリジナルのゲーム製作も本格的に再開するつもりです。
実は、ずいぶん前(私がまだコマンド編集部にいた頃)にデザインを開始
して、途中でストップしていた「1941年のモスクワ戦」のデザイン構想で
最近、大きなブレイクスルーがあったので、もしかしたらクルスク南部の
作戦戦術級ゲームよりも、こちらが先に完成するかもしれません。

製作が途中でストップしていた最大の理由は、モスクワ戦に特有の
「司令官の心理面でのジレンマ」が感じられなかったことでした。
敵を1ユニット撃破して○VP、どこの都市を占領して○VP、というような
単純な「点取りゲーム」では、モスクワ戦の緊張感は再現できないように
思われたのです。「歴史群像」第66号巻頭に執筆したモスクワ戦の記事
を読まれた方ならおわかりのように、ドイツ軍の首脳部は11月の時点で
当初予定していた形でのモスクワ攻略は不可能であることを承知して
いました。とりわけグデーリアンは、このまま攻撃を継続することは部下
の生命を無為に失うことになるから、攻勢は中止すべきと進言しました。
しかし中央軍司令官ボックは、ここまで来て停止するよりは、ソ連邦の
体制崩壊という可能性に賭けて、ソ連の心臓部であるモスクワ攻略を
最後まで試みるべきだと主張、参謀総長ハルダーもそれに同意し、
結局ドイツ軍の最終攻勢は11月末まで続けられました。

一方のソ連側では、各地で連戦連敗を重ねながらモスクワ前面の決戦
を迎える形となったものの、軍隊組織の根幹は大きく揺らいでおり、
史実のような冬季大反攻による逆転を実現できると確信していた者は
ほとんど誰もいませんでした。独裁者スターリンですら、ジューコフに
「君は本当にモスクワを守りきれると信じているのかね?」と弱気な質問
をしていました。つまり、ソ連側はモスクワ戦を通じて、赤軍が突然崩壊
するという可能性に多少の不安を感じていたと考えられます。

この二つを「鈴木銀一郎イズム」、つまり史実の戦況をただ再現するので
なく、当時の両軍司令官が直面した不安とジレンマをプレイヤーに味わ
わせるというデザイン思想でゲーム化しようというのが、新作のモスクワ
戦ゲームのデザイン構想です。ドイツ軍の攻勢により、ソ連軍ユニットが
撃破されたり特定の都市を占領させたりするごとに、ソ連側は一種の
「ダメージポイント(正式な呼称はあとで考えます)」を蓄積し、それが
一定のレベルに達すると、「スターリングラード攻略」で3つの渡船場を
取られた場合と同様に、ソ連軍全体の「士気阻喪」が発生します。
ただし、ソ連側のダメージポイントがどの程度蓄積しているのかは、
ゲーム中にはドイツ軍プレイヤーは知ることができません。したがって、
それまでの戦果を基に「あと一撃、あと一撃を加えれば赤軍は崩壊する
かもしれない」という望みに賭けて、攻勢を継続するわけです。
もしかしたら、あと1ポイントで士気阻喪かもしれないし、まだ10ポイント
以上の余裕があるかもしれない。敵の内情を知る手がかりは、地図上の
戦況だけですが、ソ連側が意図的に後退策を選んで、ポイント損失と
引き換えに冬季反攻を前提とした計画を立案している可能性もあります。

もちろん、ソ連軍プレイヤーは、ダメージポイントが刻一刻と蓄積していく
情勢を見ながら、心理的に追い詰められることになります。状況次第で
は、冬季反攻を迎える前に士気阻喪して全てを失う可能性がある以上、
のんきに兵力温存策を選べば勝てるというわけではありません。

このように、両軍上層部における心理的な不安とストレスに焦点を当て
るという視点でゲームデザインを進めれば、モスクワ戦ゲームの決定版
を作れるのではないか、と考えているところです。士気阻喪が発生する
バランスは、慎重に設定しないといけないので、来年夏以前にゲームが
完成することはありませんが、完成品のイメージはかなり明瞭に頭の
中で描けているので、デザイン作業の手ごたえはかなり良好です。
満を持して製作する新作のモスクワ戦ゲームに、ぜひご期待ください。


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コメント 4

ハナザー

今年もお疲れさまでした…m(_ _)m 公私とも充実していたそうで、何よりです(^.^)b☆
「新作モスクワ戦」勝利条件コンセプト「Grand Illsion」(GMT)みたいで、おもしろそうですね♪(^O^) 来夏以降の完成、期待していま〜す(^_^)/
来年も今年以上に充実したご活躍、お祈りします(^-^)ゝ
by ハナザー (2005-12-31 18:00) 

瀬太郎

 あけましておめでとうございます。作戦級好きの僕は、昨年は「パウルス第6軍」と「スターリングラード攻略」「バルジの戦い」で、たっぷり作戦級の醍醐味を堪能させていただきました。今年の再販ラインナップにも、期待しています。
 あと、モスクワ戦の新作ゲームですが、本当に興味深いです。戦闘序列が細かいという路線は、GMT「TYPHOON」がありますが、司令官のメンタル面に着目したモスクワ戦のゲームは、過去にだれも作っていないでしょう。できれば、1日プレイでソ連の反攻が終わるくらいのボリュームに仕上げてください。完成を心待ちにしています。
by 瀬太郎 (2006-01-01 12:37) 

中モルトケ

新作モスクワ戦、プレオーダー募集が始まったらすぐ申し込みます!

パウルスは最初期待してなかったんですが(失礼!)
友人とやってみるとスタポケとは違う雰囲気で
パウルカレルの描く戦場ドラマが想起できる作品に仕上がってました。
モスクワもきっとドイツとソ連のどちらをやっても楽しめる
緊迫したゲームになるはず。
今年もシックスアングルズに期待しています!
by 中モルトケ (2006-01-03 00:27) 

偽ボック

新作モスクワ戦、面白そうですね。期待しています。

Blogを読んでいて、以前GMT Typhoonを4人でプレイした時のことを思い出しました。
ドイツ軍プレイヤーは、進めば進むほど狭くなる攻撃正面と、無尽蔵に見えるソ連軍防衛部隊・塹壕、消耗していく自軍に絶望し、二人とも心の中で「こんなの無理だー。モスクワなんて絶対落ちないよー」と嘆いていました。
ところが、時間切れのため途中でゲームを終えて話しあってみると、一方のソ連軍プレイヤーも、毎ターン着実に1-2ヘクスずつ前進してくるドイツ軍に恐怖し、「もう無理だ、モスクワ陥落近し!」と悲鳴をあげていたと聞いて、お互い驚いたことがありました。

4人ともがTyphoonを初プレイだったこともあっての偶然の産物でしょうが、図らずも「峠の向こう側」効果が素晴らしい形で再現されていたことに、感動したのを覚えています。
by 偽ボック (2006-01-05 17:41) 

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