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2006年4月13日 [その他(ウォーゲーム関係)]

2006年4月6日の記事に対するコメントで、古参兵さんが書かれていた
「70~80年代のシンプルでプレイアブルな良作ゲームはビートルズや
ストーンズの名曲と同じで、古くなっても味があり、いつまでも飽きずに
楽しめる」という文章は、非常に本質をついた上手い表現で、卓見だと
思います。先日、ストーンズの中国(上海)公演の模様をテレビの報道
番組で見ましたが、曲自体の構成は非常にシンプルでオーソドックス
なのに、全く古さが感じられないのには改めて驚きました。

メーカーが新たな商品を出す場合、何か新機軸を付け加えないといけない、
という強迫観念にも似た「思い込み」に陥りやすく、ウォーゲームの場合も
新作が出るたびにディテールを追求する「精密なルール」が盛り込まれ、
ゲームはどんどん複雑化してきました。確かに、それらの「精密なルール」
は理路整然としており、歴史的事実の再現という目的に照らせば、納得
のいくものではあります。しかし、70~80年代のシンプルな名作ゲーム
(レック・カンパニーの作品も含む)が今なお日本でもアメリカでも熱烈に
プレイされているという事実は、単に「ルールが比較的簡単だから」という
だけでなく、その「簡単なルール」が「歴史的要素の再現」という面に
おいて最低限の水準を達成していることを物語っているように思えます。
要するに、歴史上の戦いを左右した要素の「エッセンス」をゲームの
プレイを通じて感じられる仕上がりになっていれば、プレイヤーはそれで
充分満足できるようなのです。

OSG社の「バルジの戦い(Dark December)」をシックス・アングルズの
別冊として出す計画を進めていた時、日本での知名度の低さから、私の
周囲ではセールス的な成功を危ぶむ声も聞かれました。しかし、出して
みると予想外の好セールスという結果に迎えられ(今日も直販で一件の
メール注文がありました)、改めて「適度な簡潔さで有名な戦いの歴史
的要点を押さえた名作ゲーム」は時代を経ても簡単には廃れないという
思いを強くしました。

その一方で、「クルスク大戦車戦」の追加注文も途切れずに入っており、
シンプルなゲームだけが現在の「売れ筋」というわけでもないようです。
「クルスク」は、比較的ヘヴィな基本システムのプレイヤーへの負担を
軽減するため、考えつく限りの「創意工夫」でオリジナル版の良さを引き
出そうとしたゲームですが、これはあくまで「より多くのプレイヤーに受け
入れてもらえることを目指して入れた」ものであって、「なにがなんでも
新機軸を付け加えよう」という強迫観念に囚われていたわけではありま
せん。

「レトロスペクティブ」シリーズのラインナップは、「バルジの戦い」「砂漠
のキツネ」という「シンプル路線」と、「スターリングラード攻略」「クルスク
大戦車戦」という「テーマに特化したシステムで歴史性を追求した本格派
路線」の二つに分類できますが、後者の場合も決して初心者や「負担の
軽いゲームが好きなプレイヤー」を無視することなく、プレイ補助ツールや
簡略版シナリオなどを独自に追加して、オリジナル版の持つ魅力が少し
でも伝わるよう努力していきたいと思います。そして、どちらの場合も
(ストーンズの新譜のように)商品としての「新鮮さ」が確かに感じられる
ような作り方を、今後も心掛けていくつもりです。

あと、私の新作デザインについてのご質問ですが、モスクワ攻防戦の
ゲームは「砂漠のキツネ」と並行してちゃんと進めています(ゆっくりと、
ではありますが)。ユニットは、ドイツ軍が3ステップ以上を持つ1個師団
単位(戦力減少状態を示す部隊名なしのサブカウンターを併用する予定)、
ソ連軍は1ステップのアントライドで1~3個師団が1ユニット(GMTがたま
に使う複数併記方式で全ユニットに師団番号が入ります)という体裁に
なります。ゲームマップには、西はスモレンスクから東はモスクワ、
北はカリーニンから南はクルスクまでを、通常よりやや大きなヘクスで
収録します。


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コメント 10

VP

新作デザインのモスクワ攻防戦のゲームに期待しております。制作は
ゆっくりと進行中とのことですが、デザインコンセプトなど更に詳しい情報も、
近いうちに読めればいいなと思ってます。
by VP (2006-04-13 18:11) 

庭猟師

山崎さん、こんにちは。「Dark December」、楽しくプレイしています。
私のように史実に疎いプレイヤーにとってゲームは歴史を学ぶツールでもあります。「East Front」でヒトラーの心境を思い、「Napoleon's Last Battles」をプレイして落日の皇帝陛下を憂い。。。いずれもシンプルすぎるルールながら何度でも遊びたくなる魅力を秘めたものでした。私は「砂漠のキツネ」は見たことすらありませんが、DDのようなになぞらえてくださるにところ、大いに期待しています。とにかく、心待ちにしています。

追伸:
先日とある場所である商品のコマーシャル画像を拝見。人が森の中を走ってるんです。で、「山崎さんのコラムにこういうのがあったなあ」と思い立ち止まって続きを観ていたら、なんとそれはランドローバーのコマーシャルでした。ちょっと驚きました。(主題に関係ない話題ですみません!)
by 庭猟師 (2006-04-13 22:19) 

プトニク

モスクワ戦ならびに今後の新作デザインに期待しております。

ところで、既に発表されているリリース予定のSPIゲームが出終わった後については、なにか考えがおありでしょうか? たとえばの話、SPI社の第一次大戦ものなんていかがでしょう? World War I や、Tannenbergなど・・・
by プトニク (2006-04-13 22:23) 

古参兵

今後の出版方針をこのように表明していただくと、ユーザーとしても心強いです。きちんと戦略を立てて物事を進める姿勢は、なにごとによらず大切だと思います。「シンプル路線」と「本格派路線」の二本柱プラス山崎さんのオリジナル・デザインで、今後もよい製品を市場に供給していってくれることを期待します。

ちなみに・・・ 「シンプル路線」がビートルズやストーンズだとすると、「本格派路線」はジミ・ヘンとかディープ・パープルあたりかなぁ・・・ 「誰でもOK」というわかりやすさはないけれど、熱心なファンが意外と多かったりする・・・  最近では、F1中継で流れるホンダのカッコイイCFでBGMに使われていました(これはカヴァー・バージョンでしたが)「パープル・ヘイズ」はやっぱりカッコイイ・・・ (余談ですいません)
by 古参兵 (2006-04-14 02:23) 

Mas-Yamazaki

VP様: モスクワ戦の新作ゲームについての基本的なデザイン・コンセプトは、本ブログの「2005年12月31日」の記事で少し触れていますが、心理的要素を加味した作戦級ゲームになります。ドイツ軍は「ソ連赤軍は今、どのくらい崩壊に近づいているのか」を推測しながら攻勢を継続し、ソ連軍は自軍がどのくらい崩壊に近づいているのかを認識しつつ「ドイツ軍はあとどのくらい攻勢を継続する力を持っているか」を読みながら首都防衛を行います。ソ連軍の狙撃兵ユニットは、バラつきが大きくなりすぎるのを避けるため、狙撃兵2個師団で1ユニットとすることにしました。戦車は、1個師団、2個旅団、3個旅団の3種類がありますが、アントライド状態では同じ分類で「戦車」とだけ表記されています。また何か進展がありましたら、ご報告させていただきますので、ご期待ください。

庭猟師様: 「バルジの戦い」を楽しんでいただけでいるとのこと、何よりです。ゲームを通じて史実を知る楽しみは、ウォーゲームが持つ独特の魅力ですが、既に豊富な知識を持つ「マニア」向けの史実再現ルールは、得てしてそうした根源的な魅力を阻害してしまうことがあります。なので、シックス・アングルズの出版物では、「ヒストリカルの追求」が「ゲームを通じて史実を知る楽しみ」の邪魔とならないよう、細心の注意を払っていきたいと考えています。「砂漠のキツネ」にも、ぜひご期待ください。あと「ランドローバー」の宣伝で、森を走るシーンがあるというのは、初めて聞きました。よろしければ、もう少し詳しく聞かせてください(悪質なリンク広告は論外ですが、それ以外でしたら本題と関係ない話でも大歓迎ですよ)。
by Mas-Yamazaki (2006-04-19 12:17) 

Mas-Yamazaki

プトニク様: 第一次大戦のゲーム、たしかに興味深いですね。特に「第一次大戦の東部戦線」シリーズは、どれも作戦級ゲームとしての完成度が高いと評判なので、将来的には再販の可能性もないわけではありません。ただ、いかんせん知名度が低くて、第二次大戦物ほどセールス的に期待できないのも事実。やるとすれば「タンネンベルク+ブルシーロフ攻勢のセット」みたいな形で、共通ルールと特別ルールの組み合わせで本誌のルール部分を節約し、残ったページを背景説明記事とリプレイ/研究に充てる、という形がベストでしょうか。この種のご提案は、実現の可能性は別として(すいません…)、いつでも歓迎ですので、今後も気楽に書き込んでいただけると幸いです。

古参兵様: ホンダのコマーシャルで使われている「パーブル・ヘイズ」、確かにかっこいいと思います(特にギターの音が)。このあたりの名曲のカバー・バージョンはけっこう多くて、ジャズ系のユニット「フライド・プライド」が「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を独特のアレンジ(なんとアコースティック・ギターとジャズ・ボーカルのみ!)で演っているのをライブで見た時には「こんな料理の仕方もあるのか!」と驚愕しました。今年のホンダは、トヨタに対するライバル心剥き出しで、なかなか面白いです。昨年は完全にトヨタに負けてしまい、「日本GP」の権利もホンダ系の鈴鹿からトヨタ系の富士に持っていかれたので、今年は捲土重来を期しているのでしょう。ちなみに、妻はヤルノ・トゥルーリ(の顔)のファンで、去年はニュルブルクリンク・サーキットまで一緒に観戦しに行きましたが、今年はまだ不調で結果が出ないせいか、夜中の中継はスタートだけ観たらさっさと寝てしまいます。
by Mas-Yamazaki (2006-04-19 12:28) 

プトニク

個人的には、World War I とTannenbergのカップリングがベストですが・・・ しかしルールブックの効率的な収録を考えると、GWIEの2作を同時収録も悪くない選択だと思います。CaporettoもVon Hindenburg in Polandもなかなか良い作品ですよ。
by プトニク (2006-04-20 02:23) 

桜

「第一次大戦ゲームはマイナー《だから売れないだろう》」というのは、実情とは異なる「固定観念」ではないでしょうか。ブームの頃は、少数のマニアがピラミッドの頂点に、第二次大戦しか興味のない一般ゲーマーが底辺に広く存在する分布でしたから、この認識は的を射ていたと思います。しかし今このホビーに残っている人間は「マニア度」が高い人が多く、ゲーマー一人あたりの第一次大戦ゲームのプレー経験もブームの頃に比べると格段に高いはず。とくに「World War I」はタクテクスの付録に付いた時も評判が良かったですし、シックス・アングルスでの復刻が実現すれば好評を博するのではないでしょうか。
by 桜 (2006-04-20 14:21) 

中モルトケ

私も桜さんの意見に賛成です。「パス・オブ・グローリー」は日本国内の例会でもよくプレイされているように見受けられます。

売れる・売れないのリスクはメーカーが負うことなので、無理にとは申しませんが、アイテムの選定さえ見極めれば、商業的失敗は回避できるのでは。
by 中モルトケ (2006-04-21 12:19) 

Mas-Yamazaki

「第一次大戦ゲーム」についてのいろいろなご意見、いずれも大変参考になるものばかりで、発行人として非常にありがたく思っています。特に、桜さんの書かれている「固定観念」の話には、思わず唸ってしまいました。たしかに、現在もゲームを買い続けている大多数のウォーゲーマーにとって、第一次大戦は昔の「ブーム」の頃ほど、遠い存在ではないのでしょう。

リクエストが寄せられている「ワールド・ウォーI」は、最も発行部数の多かった時代のタクテクスに収録された作品で、ゲームとしての完成度には定評があるので、将来の候補作として前向きに検討させていただきます。また、アイテムの分野とは別に、ゲームを買うか買わないかの判断においては「ブランドに対する信頼」という要素も大きいと思います。良い意味での「信頼」を最も勝ち得ているメーカーとして、まず思いつくのは米国のGMT社で、知らないテーマのゲームであっても「GMTならハズレはないか」と考えてとりあえず買う、という方も多いのではないでしょうか。私も、彼らの仕事ぶりを目標にして、今後もいろいろな面で創意工夫を重ね、より良い製品(オリジナル版の長所を伸ばし、短所やエラーを可能な限り排した製品)を出版し続けたいと思います。

なお、別冊として刊行する「ウォーゲーム・レトロスペクティブ」のアイテムについてのリクエストは、今後も継続して承りますので、何かよいアイテムがありましたら、コメントやメールでお知らせください。
by Mas-Yamazaki (2006-04-22 21:42) 

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