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2008年11月4日 [その他(雑感・私生活など)]

今日は、仕事を離れて音楽の話題など。朝起きてネットのニュースサイトを見ると、音楽プロデューサーの小室哲哉が逮捕されたとのこと。楽曲の権利譲渡をめぐって揉めているという話は以前からありましたが、民事ではなく刑事で告訴、しかも大阪地検特捜部による逮捕という展開は予想外でした。確か一年くらい前、たまたまテレビをつけたところ、某スピリチュアル系番組にこの人が奥さん(KEIKO)と一緒に出演していて驚かされた記憶があります。覇気のない表情で、某スピリチュアル・カウンセラーに人生相談みたいな話をしている彼を見て、ああ、この人も(創作家として)もう終わりかなと、妻と話していたところでした。

私はわりと小室氏の楽曲が好きで、特にGlobeは今でも自分の作ったコレクションCDを仕事のBGMでたまに聴いています。いわゆる「打ち込み系」と呼ばれる彼の楽曲には、無機質で人工的な印象を感じて拒絶する人も多く、また1枚のアルバムで良い(気合いを入れて作っている)のは1曲か2曲だという批判もそれなりに的を射ているとは思います。しかし、サンプリング・マシンを使って、実際の演奏ではあり得ないような音の重ね方で、あるテーマを表現する手段として厳選した「音(素材)」を使って「曲を緻密に組み立てる」彼の曲を聴き、マーケティング的な要請とは少し違う種類の、職人的な「完成度の高さ」を感じることもしばしばでした。

情感を刺激する美しいメロディと、その周辺に散りばめる様々な音(ボーカリストの「歌唱」も含む)、そして彼独特の言葉(日本語としては多少崩れていても)を、3分前後という時間的制約の中に過不足なく配置し、ひとつの世界を作り出す彼の才能は、他の誰にも真似できないものだったと思います(特にDeparturesは傑作でした。前奏の長い、JR東日本のCFで使われていたバージョンが聴きたいのですが、どこにも見つからない…)し、彼が逮捕された後も(権利関係で制限されなければ)カラオケなどで歌われ続ける曲は少なくないはずです。しかし、香港での音楽事業への投資が大失敗に終わり、数十億円ともいわれる負債を抱えた頃から、彼の中で何かが大きく変化したようです。ある時期を境に、彼の作る楽曲は(私にとって)まったく魅力がなくなり、前記したような「完成度の高さ」も「美しいメロディ」もない、散漫な「音」がだらだらと流れていくだけの曲ばかりになってしまいました。こうした創作内容の変化と、彼の周辺での金銭的事情がリンクしているのかどうかは不明ですが、あれほどの稀有な才能が、いとも簡単に見る影もなく消滅してしまうというのは、自分の「才能」を信じて(それが特定の分野でトップレベルかどうかは別として、現状ありのままの自分の才能を認識して、という意味です)広義の創作活動を生業とする者にとっては、非常に恐ろしい話です。

テレビのニュース番組に出ていたある音楽評論家は、小室哲也の音楽が廃れた理由について「うわべだけの音楽に飽きたリスナーが、より本格的な曲を求め始めたため」などと、安易に時代の流れと結びつける説明をしていましたが、私を含めた「小室ファン」が彼のCDを買わなくなったのは、(おそらく)単に「新曲の質が落ちた」からで、彼の古い曲は今でも聴いています。実際、彼の凋落後に業界を牛耳ったのは、いわゆる「つんくファミリー」ですが、これが「より本格的な曲」だったかどうかは説明不要でしょう。私にはやはり、彼の曲がつまらなくなったのは、何か他に大きな理由があるように思えます。

私は小室哲哉個人について、メディアを通じて伝えられる情報しか知らないので、彼が「自分の手元に入ってきた莫大なお金をコントロールできず、大金に翻弄された挙句、遂には金に溺れて破滅した」というニュース報道の(単純化された)結論に異論を差し挟む材料を持ってはいません。また、「楽曲の権利を餌にした億単位の詐欺」という、音楽家として最も恥ずかしい犯罪に手を染めてしまった彼に、同情や憐憫を感じることもありません。しかし、成功した創作家でも、お金に溺れることなく、確固とした自分の生活基盤や倫理観、金銭感覚を保持している人はたくさん存在するわけで、その違いがどこにあるのか、非常に興味を惹かれる問題ではあります。ちなみに、今回小室哲哉を告訴した原告のコメントがニュースサイトに出ていますが、なかなか興味深い内容です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081104-00000552-san-soci

今回の逮捕騒動を見て、自分が将来仕事で多少成功して裕福になっても、自分はあくまで「職人」としての矜持を貫き、執筆やデザインなどの「創作」とは関係のない、大規模な事業や投資には絶対に手を出すまい、などと、書いていて笑ってしまうような素朴な「教訓」を得てしまいました。シックス・アングルズの事業も、今まで同様、ほどほどの規模に保っておこうと思います(笑)。

ちなみに、仕事中のBGMで今年とりわけお世話になったCDは、この3枚です。ちょっとマイナーですが、興味のある方はぜひ(ネット上の試聴などで)聴いてみてください。

lesfreres.jpg
レ・フレール「ピアノ・ピトレスク」
一部で人気の日本人ピアニスト兄弟の最新盤。演奏は自由奔放、それでいて品格と誠実さも漂う。

foals.jpg
フォールズ「アンチドーツ」
イギリスの新人バンド。演奏は荒削りですが良いプロデューサーと巡り合ったようで、アルバムの完成度はすごく高い。

thebirdandthebee.jpg
ザ・バード&ザ・ビー「ザ・バード&ザ・ビー」
これだけは昨年発売のアルバムですが、頭の中がスーッと涼しくなるアイスミントティーのような音楽。ドライブ中にもよく聴いています。
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TKO

小室ファミリーの曲は私もよく聴いてました。とくにtrfが大好きでした。今回の事件は単なる詐欺にしては周辺に黒い霧が漂っているようですが。。。しかし自業自得の面もありますね。曲づくり以外ではいろんな部分で弱い人だったんでしょうか。






by TKO (2008-11-06 17:18) 

Mas-Yamazaki

TKOさま: コメントありがとうございます。ご指摘のとおり、事件の背景についてはいろいろな異説や解釈があるようで、芸能界の奥の深さというか、影の部分が垣間見えるような気もします。ただ、小室氏の責任はやはり免れないでしょうね。本人も詐欺行為を認めているようですし。

trfは、今日石田さんが持ってきてくれたのをひさしぶりに聴きましたが、やっぱりよく出来た曲だと思いました。起承転結というか、一曲の中にいろいろなストーリーを上手く織り込んでいますね。惜しい才能でした。
by Mas-Yamazaki (2008-11-09 00:01) 

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