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2009年2月11日 [その他(ウォーゲーム関係)]

諸々の原稿を入稿して、次の校正ゲラが届くまでの一時的な「無風状態」になったので、今日は久しぶりに(もしかしたら半年以上ぶり?)、ゲームのユニットを切る作業などでのんびりと時間を過ごしました。

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今回切り離したのは、米国ウォーゲーマー誌の第15号付録として1981年に出版された「ドライブ・オン・ダマスカス」のユニットです。テーマは、1941年6月から7月に、中東のシリアおよびレバノンで発生した、ヴィシー・フランス軍対英連邦と自由フランスの連合軍の戦いで、最終的にはヴィシー側が敗北して、同地は英連邦軍の支配下となりました。

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デザイナーは、現在ではGMT社の「バルバロッサ」シリーズで知られるヴァンス・ヴァン・ボリース氏。ご存知の方も多いかと思いますが、彼はかつてウォーゲーマー誌で、北アフリカ戦域の作戦を同一のシステムで描くシリーズゲームをいくつか手がけており(「オコンナーズ・オフェンシブ」や「ヘルファイア・パス」、「デシジョン・アット・カセリーヌ」など)、このゲームもおそらく同じ地中海ということで、興味を惹かれてデザインしたのだろうかと推測します。ただし、ゲームシステムは北アフリカのシリーズと同じではなく、ゲームの手順は増援と移動、戦闘を双方繰り返す形(北アフリカのシリーズは敵の対応移動フェイズがある)で、戦闘結果表も1種類(北アフリカのシリーズは2種類)と、シンプルな構成なっています(ただし、この戦い特有の政治的状況を再現するために細かい特別ルールがいろいろ付随している)。

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このゲームのフィジカルな特徴の一つは、一般的なヘクスではなく、ドットのマップを使用していること。昔、月刊化されたばかりのタクテクス誌で、「ナポレオン・アット・ウォータールー(ワーテルロー)」で同じことを試みていましたが、やはり実用性の面でいろいろ難ありのようで、全く普及しませんでした。ドットの間隔が広ければ、それなりに「実際の地図の上で作戦を指揮している」気分になれるのかもしれませんが、ユニットが込み入っていると地形の判別が面倒である上、ちゃんと正しい位置に並んでいるか気を使わなくてはならないので、プレイヤーの集中力を削ぐことになってしまうようです。ちなみに、1ヘクスならぬ1ドット間の距離は、3.2マイルで、1ターンは実際の1日に相当します。

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ヴィシー・フランス軍の初期配置。同政府は、中立という立場でありながら、イラクでの反英クーデターを支援しようとするドイツにシリアとレバノンの基地および補給物資を提供しようとしましたが、結果的には英連邦軍と自由フランス軍に侵攻の口実を与えることになり、貴重な植民地を失う結果となりました。

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このゲームは、フランス軍対フランス軍というシチュエーションも興味深いですが、英連邦軍側に、当時英国の委任統治領だったパレスチナのアラブ人とユダヤ人の部隊が含まれており、中東紛争史の中では無視できない要素もきちんと描いています。左のアラブ軍団ユニット(中隊規模)と、右のパルマッハ(ユダヤ人義勇兵)中隊(指揮官のダヤンはこの戦いで片目を失い、有名な黒い眼帯を着用することとなった)は、この頃から既に仲が悪く、両者を同一ヘクスでスタックさせてはならない(たとえ移動中の一瞬であっても)という特別ルールが、これから7年後に同地で勃発する第一次中東戦争を暗示しています。ちなみに、ヨルダン川の右上の領域が、現在もなおイスラエルとシリアの間で係争の的となっているゴラン高原です。

ゲームデザイナーとしての立場からすると、特定の戦いを単に「ゲーム化」するだけではだめで、その戦いの何をどうデザインするか、プレイヤーに何を伝えるかという「テーマ」の設定とその追求が不可欠だと考えているのですが、1ゲーマー(購買者)としての立場では、こういった興味深い戦いを、真正面からきちんとゲーム化してくれたという点で、とりあえず評価しようという気になります(考え方は人それぞれなので、違和感を覚えられる方もおられるかと思いますが)。

ダニガン先生も昔『ウォーゲーム・ハンドブック』で書かれていたかと思いますが(同書P154-155を参照)、地図を広げてユニットを並べ、ルールやシナリオに目を通してみるだけでも、本を読んだだけでは得られない種類の情報(ダニガン氏は「ダイナミック・ポテンシャル」という言葉を使われていますが)をいろいろと得て楽しめるのが、このホビーの魅力の一つだと思います。なので、私はいわゆる「名作」や「傑作」以外のゲームでも、題材面で特に興味を惹かれたら、とりあえず買ってみることにしています。箱入りは、保管場所を取るので選択の基準はやや厳しくなり、関心が薄れたらオークションで処分したりしていますが、雑誌付録は今でも仕事場の棚にたくさん並んでいます。

おそらく日本版として出しても、50個売れるかどうか怪しいようなこのゲームですが、私にとっては、買う価値のあった一作(詳しいヒストリカル・ノートも含めて)です。
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古参兵

The Wargamerとはなかなか渋いチョイスですな(笑)。初期のThe Wargamer誌といえば、SPIのStrategy & Tactics誌よりもさらに外角低めぎりぎりの題材が多くて、なかなか面白かったです(ボールと判定されるタマも多かった・笑)。もう忘れ去られたアイテムの中にも、まだまだ正当に評価されなかった作品はありますね。私は新作も買ってプレーしていますけど、古参ゲーマー向けに、レトロアイテム限定のウォーゲーム雑誌を、どこか出してはくれんでしょうか(笑)。
by 古参兵 (2009-02-13 13:14) 

Mas-Yamazaki

古参兵さま: コメントありがとうございます。そうなんです、昔のウォーゲーマー誌は、テーマの選択が変わっていて(悪く言えばイギリス的にひねくれていて?)、なかなか楽しい媒体でした。

レトロアイテム限定のウォーゲーム雑誌というのは、良いアイデアかもしれませんね。もちろん、単なる懐古趣味になってはあまり建設的とは言えませんが、例えばアバロンヒル社の(日本に輸入された中での)初期作品など、当時中学生だった私は歴史的知識の不足からその価値を理解できず、今になってようやく真価を理解できるようになった、というアイテムがいくつかあります(オリジン・オブ・ワールド・ウォーIIなど)。そういったゲームに、再び(年齢では大人になった我々が)光を当てて評価するというのは、それなりに建設的な意味を見出せるかと思います。

定期刊行物にするのは難しいでしょうが、例えばシックス・アングルズの本誌のみの別冊特別号みたいな感じで、1冊800円くらいで出せば、300冊くらいは売れるかもしれません(完全に同人誌レベルですね)。いずれにせよ、今すぐにどうこうできる話ではないので、将来の構想の1つとして頭に入れておきます。
by Mas-Yamazaki (2009-02-17 00:52) 

Almera WRC

 友達とプレイするのに不便で「ナポレオン・アット・ウォータールー(ワーテルロー)」のマップに結局線を引いたのを思い出してしまった。
 あの頃高校生だったので少ない小遣いをやりくりして別売りのユニットシートを買ったんだけどどこにしまったのだろうか、本誌はいるところだけ切り抜いて捨ててしまったもののゲームとルールはどこかにあるはずなんだけどな。
 当時のTACTICSの付録をを放課後の教室でよくプレイしたけど最近全然ご無沙汰ですんで、探し出して久々いにプレイしたいものです。
by Almera WRC (2009-02-20 18:26) 

Mas-Yamazaki

Almera WRCさま: コメントありがとうございます。「ナポレオン・アット・ウォータールー(ワーテルロー)」の地図は、イラストが綺麗でしたが、やはり皆さん不便だと感じておられたのですね(笑)。別売りのカウンター・シートは私も毎回、申し込んでいました。NAWシステムのタクテクス付録ゲームは、なかなか面白いものが多かったと思います。私は「ヴァグラム」が好きでしたが、「イエナ・アウエルシュタット」の分割マップも面白かった。あの手法で鳥羽・伏見の戦いとか、どなたかデザインされませんかね?
by Mas-Yamazaki (2009-02-22 18:24) 

Almera WRC

 遅ればせながらお返事ありがとうございます。確かにイラストがきれいで、線を書いたあとに“しまった”と思った記憶があります。
 しかし考えてみればいい時代になりましたね。もし今ならコンピューターでスキャンして線を書き込んだり、ユニットシートも別売りのものを買わなくてもその気になれば自分で作れる時代です。
 最近暇が無くてSLGのプレイはしていないもののネットで1990年前後の戦闘序列を調べてThird World War(GDW)のユニットを自作していますがそこそこのものが自作できますからね。しかしこれ迷宮にはまり込んで収拾のつかない状態になって、現在ではほとんど放置状態になっています。(笑)
 SLGの製作/ライセンス生産には多大なご苦労もおありかと思いますが、ますますのご活躍のほどお祈りいたしております。
by Almera WRC (2009-02-27 17:37) 

Mas-Yamazaki

Almera WRCさま: コメントありがとうございます。おっしゃるとおり、ゲームをプレイする環境としては、20年前とは比べ物にならないほど恵まれていると思います。例えば、30年前のアバロンヒル・ゲームのユニットの数値を訂正する時でも、スキャンして画像加工ソフトで手直しをした上で出力し、そのユニットに貼り付ければ、見た目はオリジナルとほとんど変わらない訂正ユニットを作成できます。日本でも海外でも、既存の人気ゲームのマップやユニットを自分の好きなグラフィックで作り直して遊んでいる人が存在するようです。

「サード・ワールド・ウォー」の戦闘序列のアップ・トゥ・デイトというのは興味深いですね。ebayなどの海外オークションでは、時たま自作のヴァリアント・ユニットや追加マップなどを売っている人がいて、そこそこ入札が入っていたりします。どんなゲームでもそうだと思いますが、1つのゲームを買ったら、楽しむ形態は何であれ、深く長く楽しんだ者の勝ちですね。
by Mas-Yamazaki (2009-02-27 23:04) 

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