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2009年2月17日 [その他(テレビ番組紹介)]

先週後半は、文庫本「ドイツ軍名将列伝」の再校作業に没頭していました。長かった作業も、ようやく今週後半に校了となりますが、本が出てから後悔しないよう、残された時間を使って少しでも良い内容に仕上げたいと思います。

またテレビの話で恐縮ですが(しかもまたNHK… 友人や親族に同局の関係者はおりません、念のため)、日曜と月曜の二夜続けて放映されたNHKスペシャル「沸騰都市シリーズ」の第7回(シンガポール編)と第8回(東京)が、宮迫氏のナレーションを含め、期待を裏切らない出来だったので、またここで礼賛させていただきます(興味のない方、すいません)。

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(画像はNHKホームページより)

このシリーズは、新興都市が経済発展に邁進する現象を真正面から描きつつ、そうした発展が常に何がしかの「代償」の上に成り立っているという古典的とも言えるテーマを、善悪の判断基準ではなく、もう少し人間の根本的な感情を微妙に揺さぶる形の表現で、限られた枠内に織り込んで表現しているのが特徴です。そして、経済発展という現象を道義的に「悪」と断じることで、自ら(判断を下す側、つまり取材者・制作者)を正義の立場に置くという安易な手法に逃げず、登場する当事者それぞれの思考や判断を丁寧に拾い上げて、経済発展の光と影の両面と、それぞれの中に存在する希望や豊かさといった数値化できない要素を、結論の押し付けではない、さりげない形で描き出しています。要するに、事実を事実として視聴者に提示し、あとは各自で判断してくださいという、視聴者の判断力を信頼した番組づくりをしている(と思われる)わけです。

シンガポール編では、冒頭で昨年に開催されたF1のシンガポールGP(史上初のナイトレース)の光景が描かれていましたが、あれは象徴的かつ本質を突いた見事な手法で、唸らされました。現代のF1は、スポーツではなく興行の一種ですが、そこでのルール(というかジャングルの掟)は、世界のトップクラスの実績を残し続ける者(ドライバーに限らずデザイナーやエンジニアも)だけがその場所に留まることを許されること、先行投資できる資金を常に潤沢に用意できないチームはほぼ確実に(成績面で)没落すること、そして、契約によって特定のチームに所属しているドライバーもデザイナーもエンジニアも、本質的には組織の一員ではなく「独立した個人」として仕事に携わることなどで、シンガポール政府が国策として進めている世界中からの有能な人材のヘッド・ハンティング政策と全く同じ状況です。

しかし、シンガポールの発展の影には、ビル建設などの現場作業を請け負う膨大な単純労働者(多くはインドや中国からの出稼ぎ労働者)の存在があります。そして、経済状況が悪化すれば、日本企業の派遣社員と同様、特定の人材派遣会社を通じて限定的な就労ビザを得ていた彼らは、すぐに行き場を失って帰国を余儀なくされます。国家予算の支援で上限なしに研究費を使える先端科学者と、仕事を失って同郷の知人に1200円ほどの生活費を貸して欲しいと頼みに行く出稼ぎ労働者の格差は、やはり強烈なコントラストです。

リー・シェンロン首相は、外国人労働者への待遇を記者に問われて「外国人労働者はバッファー(調整弁または緩衝材)だ、経済状況が悪化すれば、私は首相としてシンガポール国民を守るために、彼ら(外国人労働者)を切り捨てる」と堂々と公言していました。日本の首相や経団連の会長が「派遣社員は企業を守るためのバッファーだ」と正直に口にすることはないだろうと思いますが、そのドライな発想は、ゲームプレイ中のプレイヤーの判断と似ているなと思いました。ゲーマー的に言い換えるなら「独ソ戦ゲームのルーマニア軍や北アフリカ戦ゲームのイタリア軍はバッファーだ。勝利得点の高いドイツ軍ユニットは温存し、損害はすべて安い同盟国軍のユニットに適用する」という感じでしょうか。たしかに、こうした方がゲームに勝てる可能性は高くなります。ゲームに勝ちたければ、プレイヤーはルール上許された最も効率のよい方法でプレイすることになります。

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東京編に登場した森ビルの会長も、ヘリで上空から東京の街を見下ろしつつ、新たな開発プロジェクトのアイデアを嬉しそうに練る姿は、やはりゲームのプレイヤーに近い印象がありました。勝っているゲームをプレイしている時ほど、気分が高揚して楽しいものです。しかし、番組を見ていて気づかされるのは、そこには最終的な「勝利条件」が提示されておらず、どこまで行ってもゲームのようにプレイヤーの「勝利」が確定することはない、ということです。シンガポールを、東京を、どんどん開発して高層ビルを林立させて、世界一のビジネス都市にする。そこまでの目標は明確ですが、ではその先はどうなるのか? どんな社会を作って、そこに住む人々の生活はどんな風になるのか? といった、目指すべき「ゴール」がないまま、毎ターン勝利得点をただ獲得し続けているだけのゲームのようにも見えます。何点取ったら勝利なのか、それがルールブックには書かれていないので、とりあえず得点を取り続けて、プレイヤー間でトップの地位を保持するために、立ち止まらずに走り続けなくてはならないのでしょうか。

以上は、私が見終わった直後に漠然と感じたことですが、おそらく見る人によっていろいろな感じ方があると思います。下記の時間に再放送されるそうなので、興味のある方はぜひご覧になってください。今という時代を知り、考える一助になる番組だと思います。


2009年2月18日(水)午前0時45分~1時34分(17日深夜)総合
沸騰都市 第7回
シンガポール 世界の頭脳を呼び寄せろ

2009年2月19日(木)午前0時45分~1時34分(18日深夜)総合
沸騰都市 第8回
TOKYOモンスター
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