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2009年3月5日 [その他(雑感・私生活など)]

更新が滞ってしまい、申し訳ありません。3月1日から4日まで、東京に出張で出ていたので、ブログ更新もメールチェックも全くできませんでした。

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東京モンスター(新宿付近)。高層ビルの頭で点滅する赤い灯りが、心臓の鼓動のようにも見えます。

初日は、夕方に池袋で大木毅師匠とお会いし、シックス・アングルズ次号に寄稿していただく記事の打ち合わせをしましたが、お会いするごとにシミュレーション・ゲームに対する師匠の熱意が大きくなっていることを実感し、私としては「しめしめ」という感じです(笑)。その後、中野歴史研究会の志乃さん、そしておなじみの瀬戸(利春)さんと合流して、戦史やゲームなどの話題で盛り上がりました(鹿内靖さんも参加していただく予定でしたが、残念なことに体調不良とのことで実現せず。前回大阪でお会いした時も帰京される新幹線の都合で飲めなかったので、非常に残念)。「それなりに人生経験を積んで、今の年齢になったからこそ理解できる物や事って、実は多いよね」と志乃さんが言われていましたが、私もまったくその通りだと思います。今から10年前、20年前には、価値を全然理解できなかった本やゲームを、今になって手に取って、内容が古くなっているどころか、ようやくその深いところに横たわる大きな価値に気づいて驚くことが多々あります。新しいものを常に吸収する努力と共に、日陰に入ってしまった古いものに宿るさまざまな価値や魅力についても、目を向けるよう努めたいと思いました。

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東郷元帥像と戦艦三笠。初めて見学しましたが、意外と小さい船だな、という印象。

3月2日は、横須賀で戦史研究家/ゲームデザイナーの堀場亙さんとお会いし、戦艦三笠を案内していただいた後、ネイビーバーカーを大口開けてかじりながら、戦史やゲーム、政治の話題などで歓談しました。ゲームデザインの醍醐味や苦労話、暖めているアイデアや、個々のシステムの効果と限界といった話題は、会話の波長がぴったり合う相手でないとなかなか難しかったりもしますが、堀場さんとは幅広い話題でダイレクトな(補足説明を必要としない)意見交換に熱中でき、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

その後、夕方に五反田の学研さんへ行き、諸々の仕事の打ち合わせ(&飲み会)。昨年と一昨年は、文庫を一冊ずつ書かせていただきましたが、今年は二冊書かせていただく方向で年間のスケジュールを組み立てることになりました。新刊『ドイツ軍名将列伝』は、もう間もなく店頭に並ぶ予定ですが(出来上がった本が今日、私の手元に届きました)、この本はドイツ軍(陸軍・海軍・空軍・SS)の戦史全般に興味のある一般読者の方々はもちろん、同業者(戦史研究分野の著者や戦史出版物の編集者など)の方々にもリファレンス・ブックとして広く活用していただけるよう、持てる能力を出し切って仕上げた作品です。書店で見かけられたら、ぜひ手に取ってご覧ください。

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上野公園で咲いていたオオカンザクラ。この写真を撮って数時間後、東京では雪が降り始めました。

3月3日は、朝から上野に行き、美術館を三軒はしごしました。まず、国立西洋美術館で「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」(http://www.ntv.co.jp/louvre/)を鑑賞。入館時間が早かったためか、嫌気が差すほどの混雑にはなりませんでしたが、やはりフェルメールの「レースを編む女」が来ていることもあってか、盛況でした。今回、一番印象に残ったのは、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工ヨセフ」(http://www.ntv.co.jp/louvre/topics/2008/12/post_4.html)。妻(美術作家)の影響で各地の美術館に通うようになってから(遅ればせながら)痛感したことですが、図録や雑誌などで見て知っているつもりだった「名画」の現物を目の当たりにすると、いかに自分が(その作品について)何も知らなかったか、知らなかったのに知っているつもりになっていたかを思い知らされて、愕然とします。名画のオリジナルと、それを紹介した印刷物(それなりにお金をかけて高精細で印刷した画集も含む)とでは、極端に言えば「湯気の立っている料理(本物)とその写真」くらいに、印象の強さに差があります(美術に造詣の深い方にとっては理解していて当然の常識なのかもしれませんが)。

国立西洋美術館には、常設展示でモネの「睡蓮」などがありますが、私はこの作品を以前に印刷物で観て「キャンバスに塗られた絵の具にしか見えない、あまりパッとしない作品」という程度の印象しかなく(苦笑)、それほど期待していませんでした。しかし、絵の正面に立ってリラックスし(予備知識をいったん頭の中から消し)、他の鑑賞者とぶつからないよう注意しながら、半歩ずつ後ずさりしていくと、ある距離(たぶん人によって違う)に達した瞬間、視神経系が単なる「物質としての絵の具」としてしか認識していなかった全体像が突然、脳の深いところで鮮烈なイメージとなって再生され、水面に柔らかく乱反射する太陽の光や、蓮の葉と花の自然な揺らぎなど、静止画としての写真や写実的な細密画では絶対に表現できないものが、そこに描かれていたことに(心地よい)衝撃を受けます。センサーとしての視神経の限界なのか、「目に見えるもの」と「脳で感じるもの」には、微妙な違いがあり、最初から後者にターゲットを絞って描かれた作品は、「目で見る」鑑賞法だけしか知らないと「つまらないもの」にしか思えないわけです。

歴史をテーマにしたシミュレーション・ゲームの場合も、モチーフを写実的に描くことが「リアル」だと考えていた時期があり、昔はひたすら戦闘序列や地名などのディテール情報に凝ったものを目指していましたが、例えば鈴木銀一郎さんのレック・カンパニー時代の作品や、中黒さんの一連の作品などは、一定の距離まで「後ずさり」して引いて見ると、ディテールの写実性とは全く違うレベルでの「リアリズム」が突然現れるという重大な事実に、ようやくこの年になって(笑)理解できるようになりました。ゲームも絵画も、間近で「見る」だけでなく、遠ざかって「感じる」ことで、その作品に備わった価値を味わい尽くすようにしたいものです。

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上から、国立西洋美術館、東京都美術館、東京国立博物館。

午後からは、東京都美術館の「生活と芸術──アーツ・アンド・クラフツ展」(http://www.tobikan.jp/)と東京国立博物館の「特集陳列 黒田清輝のフランス留学 」(http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=A01&processId=02&event_id=6246)を鑑賞。そして夕方に神田の集英社さんへ行き、非常に興味深い案件の話題で盛り上がりました(諸般の事情により具体的に書けなくてすいません)。良い機会なので、私が以前から暖めている企画案(戦争と関係はありますが、軍事本ではない一般書)の概要を記したメモを、以前から面識のあるベテラン編集者の方に見ていただき、ご意見をうかがったところ、たちどころに「優れているところ」「弱いところ」「欠落しているところ」「変えた方がよいところ」などをポンポンポンと、ダーツの名人のように理路整然と指摘され、さすが出版業界第一線のプロと唸らされました。この後者の企画については、今すぐ出そうという気はなく、ゲームと同様、細部まで自分が納得できる形を見つけてから着手しようと考えているので、陶芸に使う粘土を捏ねて空気を抜くような感じで、気長に取り組もうと思います。

3月4日は、古い知人の坂本雅之さんと新宿で昼食をご一緒し、以前からよく行くアイリッシュ・パブで、滑らかな泡立ちのギネスを(真昼間から)楽しみつつ、戦史やゲーム、スポーツなどの話題に花を咲かせました、ご存知の方も多いかと思いますが、坂本氏は現在Pazner誌に戦史研究の記事を寄稿される傍ら、RPGやファンタジーなどの分野でも幅広くご活躍中で、しかも歴史シミュレーション・ゲームにも造詣が深いという方です。とりわけ、1944年6月~7月のノルマンディ戦について、独軍と連合軍の双方をかなり深く調べられていますが、名張の田舎の書店にはPanzerという雑誌をどこにも置いていないこともあり、いつか単行本の形でじっくり読んでみたいと思っているところです(記事のコピーをいろいろ頂けたのは大変ありがたかったです)。

その後、午後6時の新幹線(初めてN700系というのに乗りましたが、非常に静かで揺れもなく、椅子の座り心地も快適で、乗り心地のいい車輌ですね)に乗る前に渋谷のBunkamuraへ行き、「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」(http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/shosai_09_k20.html)を鑑賞しました。デュッセルドルフの美術館が改修工事をする間、所蔵品を数箇所に貸し出して実現した企画らしいですが(デュッセルドルフの美術学校に通っていた妻は学生時代に何度か所蔵作品を現地で観たらしい)、ピカソの諸作品も、近付いて「目で見る」のではなく、遠ざかって「脳で感じる」やり方でないと、笑ってしまうほどダイナミックな感情表現を堪能できない(単なる「わけのわからない下手くそな絵」にしか見えない)部類に属します。東京は、常にいろいろな美術展をあちこちでやっているようで、辺境在住者には羨ましい限りです。

非常に充実した4日間でした(皆様、ありがとうございました)が、今日からさっそく仕事を再開します。ゲーム関係では、シックス・アングルズ第13号「ツィタデレ作戦」のほか、発売を(前向きに)検討中の「ウェストウォール」の翻訳が佐藤Pumさんから届いたので、そちらの検証(ルール不備の明確化とプレイテストを踏まえた上での日本版選択ルールの追加)も、原稿執筆の合間に少しずつ進めていこうと思います。
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東郷たん

戦艦みかさと東郷司令長官の写真いいですね。何かの表紙とかに使えそう。名画の鑑賞法の話はたいへん面白く読ませていただきました。絵画だけでなくいろいろな物事を理解するときに使えそうな手法ですね。私も一度美術館に足を運んでみようと思います。
by 東郷たん (2009-03-06 23:25) 

マーケットガーデンファン

こんにちは。「ウエストウォール」日本版の発売は確定ですか! 発売をたのしみにしています。駒スペースが空いたら、「コブラ」の時みたいに指揮官ユニットをオマケでつけてもらえると嬉しいです。ホロックスにビットリッヒ、ソサボフスキー、アーカットとか…
by マーケットガーデンファン (2009-03-09 18:27) 

Almera WRC

 「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」

 展示作品が全く同じかどうかは分かりませんが、名古屋市美術館で去年の秋に展覧会を行っていましたよ。今年度は名古屋市美術館の開館20周年と言うことでモネの展覧会とかありました。名古屋市美術館はチェックしているとたまに良い展覧会をしています。ご存じかとは思いますが東京にはまったくかないませんがそれでも名古屋も県立美術館やボストン美術館などもあるのでそれなりの展覧会をしていますのでチェックのほどを。

 私は三重県の真ん中よりちょい南の方なのでなかなかそう度々というわけにはいきませんが名古屋まで絵を見に行っています。あと三重県は津に県立美術館はありますが、さすがにメジャーどころの展覧会は余り記憶にないですが、地元作家の作品には強いようです。
by Almera WRC (2009-03-10 01:21) 

Mas-Yamazaki

東郷たんさま: コメントありがとうございます。絵画の鑑賞も、読書と同様、たくさん見ることが偉いわけではありませんが、いろいろ観るうちに、自分なりの「楽しむコツ」が見えてきて、生活や思考を豊かにする一助になるかと思います。戦艦(ではなく、今は「記念艦」というのですね)三笠と東郷さんの写真は、当日写真撮影に適した天候(風が強くて雲がない晴天)だったので、うまく撮れました。
by Mas-Yamazaki (2009-03-10 19:30) 

Mas-Yamazaki

Almera WRC さま: コメントならびにアドバイスありがとうございます。渋谷で観た展覧会が、名古屋でもやっていたとは知りませんでした。去年の秋は、文庫本その他の仕事で週7日間労働だったので、たぶん知っていても観に行けなかったと思いますが…(笑)。

ご指摘のとおり、名古屋には良い美術館がたくさんあるようですね。妻がよく個展を開くギャラリーが名古屋市内なので、妻は名古屋の美術館にも詳しいようです。ただ、私はずっと大阪・奈良・京都に住んでいた「関西人」で、名張からだと大阪の方が出やすいこともあり、まだ名古屋のことは良く知らないのです(三重に引っ越したのは2年前くらいでしょうか?)。近鉄の駅で、名古屋の展覧会のチラシを手に入れて「行きたいなぁ」と思っているうちに、仕事が忙しくなって、会期が終わってしまう、というパターンも多いです。

今年は、なるべく自分の関わっていない(他の人がデザインされた)ゲームを数多くプレイするという目標を掲げていますが、それと並行して「名古屋の主要な美術館をひととおり観る」という目標も掲げようと思います。
by Mas-Yamazaki (2009-03-10 20:05) 

Mas-Yamazaki

マーケットガーデンファンさま: コメントありがとうございます。「ウェストウォール」は、正式決定はまだですが、もう事実上の決定(笑)と考えていただいてけっこうです。いくつか改善が必要な箇所が見つかっているものの、日本版選択ルール等で対処できるレベルだと思いますし、日本版で出すに値する長所もいろいろあると思いますので、出す方向で考えています。指揮官ユニットは、ぜひ入れたいですね。グラフィックは、「激闘ノルマンディ」と同様のタッチで作成するつもりです。発売日は未定ですが、ぜひご期待ください。
by Mas-Yamazaki (2009-03-10 20:12) 

マーケットガーデンファン

ありがとうございます。「アルンヘム」の指揮官以外にも、「バストーニュ」のマッコーリフとかエイブラムスも、ぜひ入れてくださいね。「ウエストウォール」日本版の発売を今から楽しみにしています。
by マーケットガーデンファン (2009-03-11 14:24) 

Mas-Yamazaki

マーケットガーデンファンさま: コメントありがとうございます。指揮官ユニットについては、空きスペースがある限り、両軍の著名人を入れる方向で考えています。ただの「飾りユニット」ではありますが、プレイ中の雰囲気を高める小道具として、活用していただければ幸いです。
by Mas-Yamazaki (2009-03-13 18:27) 

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