SSブログ

2009年5月21日 [その他(ウォーゲーム関係)]

今日の朝方、『歴史群像』誌の次号記事「コンパス作戦」の原稿を、無事に脱稿しました。主題は、1940年9月に実施されたイタリア軍のエジプト侵攻作戦と、同年12月に開始された英連邦軍の反攻「コンパス作戦」、そして1941年1月から2月のリビア東部(キレナイカ)でのイタリア第10軍の壊滅ですが、記事では同戦役に至る背景として、ムッソリーニがイタリアの政権を掌握してからの外交政策の変転や、彼が紆余曲折を経て第二次世界大戦への参戦を決意するに至った流れ、そして開戦を迎えた段階でのイタリア軍の戦争準備(がいかに不充分であったか)なども解説しています。

いわゆる戦史ファンの一部では、第二次大戦期におけるイタリア軍将兵の戦いぶりについて、ドイツ軍や英連邦軍との戦績における対比という側面からのみ評価し、あたかも国民の資質に問題があったかのように論じる風潮があるようです。しかし、ムッソリーニが参戦を宣言した時、イタリアは軍備の面でも経済的な面でも、そして精神的な面でも、大規模な戦争を長期にわたって行える状況にはなく、英仏への宣戦を高らかに布告したムッソリーニの演説に対する国民の反応も冷ややかなものでした。

一応は挙国一致の体制で、国民の熱狂的な支持と共に戦争へとなだれ込んだドイツや日本、独ソ開戦以後のソ連、真珠湾以後のアメリカとは異なり、イタリア国民は「ドイツの引き起こした戦争に自分から加わる」必然性を感じておらず、参戦を知った国民の間には、憂鬱な感情が広がっていたといわれています。国民の大多数がカトリック教徒であるイタリアでは、独ソ不可侵条約に続いて、新教(プロテスタント)国のドイツと無神論のソ連によって、同じカトリック教国であるポーランドが分割併合されるという事態に強い反発が沸き起こっており、イタリア国内でのヒトラーの人気は決して高くはありませんでした。

1935年から36年のエチオピア戦争で消費された莫大な戦費の後遺症もあり、弾薬や各種物資の備蓄も、兵器開発も、兵器生産のための工業化も、装備兵器の更新も、新たな戦争への心構えも、すべてが中途半端な状態で、服を着替えてもいないのに有無を言わさず客席から競技場へと放り込まれたイタリア軍人の多くは、おそらく内心ではこう感じたことでしょう。

「えぇーーーーーーっ !? 参戦? ……マジで?」

第二次大戦当時のイタリア軍が、どれほど戦争への準備が不足した組織であったか、そしてこの戦争が一般的なイタリア兵にとって、殉じるに値する「大義」を見出すことが難しい戦いであったかを知れば、おそらく単純な能力的比較だけでイタリア軍を評価することの無意味さに気づくでしょうし、他国と比べて全体的に非力で旧式な兵器を精一杯駆使して、純粋に母国への義務感から、過酷な戦場で戦い続けたイタリア軍将兵に対する評価や思い入れも、変わってくるのではないかと思います。『歴史群像』次号の発売は、7月初頭の予定ですが、興味のある方はぜひご期待ください。
 
 
compass01.JPG


ところで、今回「コンパス作戦」の記事を書いたこともあり、久しぶりに棚からヴァンス・ヴァン・ボリース氏の「オコナーズ・オフェンシブ」を取り出して、地図を広げてユニットを並べてみました。この作品は、現在GMT社で「バルバロッサ」シリーズのデザイナーとして活躍中のボリース氏が、3Wから出版した初期の作品の1つで、「コンパス作戦」をテーマとする大隊/連隊規模の作戦級ゲームです。以前にご紹介した「ドライブ・オン・ダマスカス」も彼の作品ですが、他にも1941年に実施された、英連邦軍のエチオピア奪回作戦を描いた「ブラッディ・ケレン」など、ほぼ共通のシステムで地中海およびアフリカ戦域のマイナーな題材をいろいろと手がけており、私は知られざる戦史に光を当てるデザイナーとしての彼の仕事ぶりを尊敬しています。

compass02.JPG


compass03.JPG


米国ウォーゲーマー誌の第41号付録として、今は亡き3W社から1985年に発表されたこのゲームは、史実のシナリオに加えて、状況設定に変化を取り入れた選択シナリオ3本と、「コンパス作戦」に続いて実施された第6オーストラリア師団によるバルディア強襲を再現するミニシナリオの、計5本が収録されています。今となっては、入手は困難なアイテムで、シックス・アングルズでも日本版を出版する予定はありませんが、今年後半のコマンド誌には、このすぐ後に発生したベダ・フォムの戦いを再現するGDW社の120ゲーム「ベダ・フォム」が収録される予定になっていて(私もこのゲームは何度もプレイして、たいへん気に入っています)、さらに「コンパス作戦」を扱ったオリジナルの小型ゲームも開発ラインに含まれているとのことで、今年の後半は「イタリア軍の再評価」に思いを馳せてみるのもよいのではないでしょうか。

compass04.JPG


特徴ある形状のあごひげから「電気ヒゲ(バルバ・エレットリカ)」とあだ名されたベルゴンツォーリ中将。サルーム、バルディア、トブルクの敗北からも生き延びましたが、ベダ・フォムで遂に英連邦軍の捕虜となってしまいました。

nice!(0)  コメント(6) 

nice! 0

コメント 6

Satoru

「オコナーズ・オフェンシブ」、面白そうですね。
最近、北アフリカ戦線がマイブームなのですが、各作戦レベルでの文章やゲームって以外に少ないですね。
ガザラ戦やエル・アラメイン戦はまだましですが、アフリカ軍団登場以前については…。
そんなわけで、「コンパス作戦」の記事、楽しみにしてます。
by Satoru (2009-05-22 02:12) 

DSSSM(松浦豊)

 はじめまして。

 私もつい昨日、ニコニコ動画に「ボードウォーゲームで見るイタリア軍大敗走:中編」(コンパス作戦直後からメキリ戦まで:http://www.nicovideo.jp/watch/sm7099431)をアップしたところで、またその関係でたまたまVASSALのモジュールに「オコンナーズ・オフェンシブ」を見つけたりしていたので「おおおっ!」と今回の山崎さんの記事に思いました。

 コンパス作戦の記事は私もなかなかなくて、動画を作るのに乏しい資料からのやりくりでした。歴史群像の記事になるとは少し前に知ったのですが……(^_^;

 今回動画を作るにあたって手持ちの資料を総ざらえで読んでいて、確かにイタリアの人が苦心してもどうしようもない状態などもあり、やる気を失って当然だとも思いました。当時のイタリアの状況について、もっと理解が広まることが必要だと思いますし、私も動画の後編でなるべくそれができるようにしたいと考えています。
by DSSSM(松浦豊) (2009-05-22 06:41) 

Mas-Yamazaki

Satoruさま: コメントありがとうございます。ロンメル登場以前の北アフリカ戦は、ご指摘のとおり日本語で読める資料はあまりありません。特に、具体的な作戦内容について知りたければ、洋書を調べるしかないようです。歴史群像の記事と、恐らくコマンドの「ベダ・フォム」が付く号にもたぶん何か関連記事が載るだろうと予想しています(外れたらごめんなさい)ので、ぜひ今年の夏から秋は「北アフリカ戦の序章」を(ゲームと記事で)楽しんでください。
by Mas-Yamazaki (2009-05-26 00:06) 

Mas-Yamazaki

DSSSM(松浦豊) さま: コメントありがとうございます。リンク先の動画を拝見しましたが、こんなことができるんですね! 驚きました。以前にこのブログで触れました、田村さんの記事の「観客」にアピールする手段として、かなり有望かと思いました。動画サイトを活用した、マップ上をユニットが動くアニメーションと、わかりやすい解説テキストの組み合わせという手法は、従来の「リプレイ記事」あるいは「アフター・アクション・リポート」よりもはるかに、まだシミュレーションゲームが何なのか知らない人に対する訴求力のある(そして受け手側の負担も軽い)グッドアイデアだと思いました。

私は、動画に関しては何のノウハウもなく、同じようなものを作ることはできませんが、これからも楽しいコンテンツをたくさん制作していただければと思います。期待(そして応援)しています。
by Mas-Yamazaki (2009-05-26 00:16) 

DSSSM(松浦豊)

 ニコニコ動画上に「なぜイタリア軍は弱かったのか?」という動画をアップさせていただきました(http://www.nicovideo.jp/watch/sm7995258)。先日の『歴史群像』の山崎さんの記事もたくさん織り込ませていただいてます。ありがとうございました。
 表現の問題や、事実誤認などもあるかと思うのですが、指摘いただければ(あるいは直接コメントしていただいても)コメントで訂正などもできますので、言っていただければ幸いです。
by DSSSM(松浦豊) (2009-08-21 07:45) 

Mas-Yamazaki

DSSSM(松浦豊)さま: コメントありがとうございます。今回リンクを貼っていただいた動画は、なぜか観ることができないのですが、後日改めて試してみようと思います(何かの設定を変える必要があるのかもしれません)。

動画で戦史およびシミュレーション・ゲームを紹介するという試みは、たいへん価値のあることだと思いますので、今後もいろいろなテーマでコンテンツを作っていただければと思います。
by Mas-Yamazaki (2009-08-26 18:13) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

2009年5月17日2009年5月25日 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。