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2019年7月20日 [その他(ウォーゲーム関係)]

今日はゲーム関係の話題を三つほど。

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まず、前回の記事でも少し紹介しましたが、今月5日に出た「歴史群像」誌の8月号(156号)に、担当記事「ドニエプル攻防戦 1943」と付録のボードゲーム2点が収録されています。

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付録ボードゲームは、各方面で大好評のうちに完売した昨年8月号の「モスクワ攻防戦」&「バルジの戦い」に続いて一年ぶり(通算3回目)ですが、今回のテーマは日本海軍もので、2人用が「第二段作戦」、1人用が「マレー沖海戦」です。

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第二段作戦」は、英文タイトルの「Carrier War」が示すように、太平洋戦争の空母戦を扱うゲームで、日本軍にまだ勝ち目があった1942年の5月から6月、つまり珊瑚海開戦からミッドウェー海戦に至る時期を扱っています。空母のコマは、上面イラスト入りで、横長のダブルサイズになっています。

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また、当時の日本海軍の上層部(軍令部と連合艦隊司令部)で検討された「第二段作戦」のさまざまなオプション(MI=ミッドウェー作戦、FS=フィジー・サモア作戦、MO=ポートモレスビー作戦など)をマップ上で試すことができ、それぞれの策にどのようなメリットとデメリットがあったのかを、指揮官の立場で感じることができるようになっています。珊瑚海海戦がなぜ起きたのか、日本海軍がなぜあれほどポートモレスビー攻略に執着したのかも、ゲームのプレイを通じて理解できるかと思います。

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ゲーム自体は比較的シンプルな形ですが、隠密移動などのルールを使わない、未確認マーカーを併用するシステムなので、ソロプレイも可能です。また、空母同士の海戦の解決は、戦術色を出す形でルール設計を行っており、実際の空母戦と同様、人事を尽くして天命を待つという、緊迫感あふれる展開となるはずです。

ゲームのプレイ時間は、ウォーゲームに慣れた人なら30分前後、一般の人でも1時間ほどで、立場を入れ替えて再戦というのも十分可能でしょう。今回も、コマが擦り切れるくらいに繰り返しプレイしていただければと思います。

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マレー沖海戦」は、1941年12月に発生した日本海軍航空機によるイギリス海軍の戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスに対する航空攻撃を再現するソリテアゲームです。単に飛行機で攻撃するだけでなく、その前段階としての南遣艦隊による捜索と、その結果に基づく出撃タイミングの決定、そして航空攻撃の結果を踏まえた「結果判定」まで、一筋縄ではいかないシステムを考案しました。

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プレイヤーは、イギリス艦隊の位置に関する情報を集めてから、航空隊の出撃を行いますが、情報が少なすぎても、また十分な情報を得るために捜索段階に時間をかけ過ぎても、結果判定では不利になります。そのため、捜索結果の入電情報を見極めながら、ここぞというタイミングで出撃する必要があります。

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また、発見後にはマップ上に描かれたディスプレイ上で、九六式陸攻と一式陸攻で両艦を攻撃(飛行機のコマは飛行中隊単位)しますが、爆装機は「低高度」と「高高度」、雷装機は「近距離」と「遠距離」のオプションがあり、それぞれ一長一短ある選択で、飛行中隊に命令を下します。

帰還後の結果判定では、両艦の沈没だけでなく、捜索に費やした時間や自軍の被った損害なども考慮しながら、上層部による任務の評価を仰ぐことになります。時には、現場の苦労を理解しない上層部によって、予想外の低評価が下されることもありますが、それも現実の組織内における不条理を再現しています。

こちらのプレイ時間は、慣れれば15分か20分くらいで終わるはずです。この戦いを扱ったゲームは、他に無かったのでは、と思いますが、実際のマレー沖海戦が一般のイメージほど簡単な任務ではなかった事実を、プレイを通して実感していただければと思います。

なお、学研の公式サイトにある「制作こぼれ話」にも、デザイナーズ・ノート的な文章を寄せていますので、そちらも併せてご覧ください。

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付録ボードゲーム(2019)について(歴史群像156号)



二つ目の話題ですが、今から7年前の2012年にシックス・アングルズ第14号付録として刊行したゲーム『ベアズ・クロウ』の完全中国語版『赤熊之爪』が、中国のメーカー「戦旗工作室」からボックス版として出版されました。

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私の手許に見本が届きましたが、ルールブックはフルカラー、マップは日本版よりも分厚い紙(セミハードマップ)で、なかなか豪華な仕様。

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「スモレンスク」「ドニエプル川」「キエフ」って、漢字ではこう書くんですね。

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アメリカのメーカーからは、1990年代にWWWやゲーマーズなどから何個かゲームを出しましたが、まさか中国のメーカーから出す日が来るとは、1980年代にゲームを始めた頃には想像もしませんでした。

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上海などで何度か現地のゲーマーと会食などしましたが、平均年齢は日本よりだいぶ若い感じです。中国では、若者にお金と時間の余裕が出てきたこともあり、ボードゲームのプレイ人口も増えつつあるようで、うらやましいです。



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そして三つ目の話題ですが、上記二つの発売を記念して、というわけでもないですが、2014年にボックス仕様として発売したゲーム『騎士鉄十字章』の価格を、2019年8月1日以降、従来の「11000円+税」から、半額の「5500円+税」に値下げします。

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このボックスセットは、フルサイズの作戦級ゲーム『パウルス第6軍』と『ツィタデレ:クルスクの決戦』をセットにしたものです。

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歴史群像」誌の付録として付いた歴史ボードゲームからいきなりステップアップするのはさすがに難しいかもしれませんが、システムはオーソドックスなルールの組み合わせとなっているので、お手頃な価格で買っていただけるようにすることで、より多くのゲーマーにプレイしていただけるようになれば、と思います。


それから、先月「週刊プレイボーイ」誌に掲載された、映画「主戦場」のミキ・デザキ監督との対談記事が、ネットで公開されています。時たま私もRTしていますが、「主戦場」と私の『歴史戦と思想戦』(集英社新書)を相互補完的に観る/読むことで、より全体像の理解が進むと思います。

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炎上しつつ全国拡大上映中のドキュメンタリー映画『主戦場』監督と戦史研究家が対談

また、「週刊朝日」の書評欄「ベストセラー解読」というページに掲載された内容が、ネット版でも読めるようになっています。

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歴史戦と思想戦─歴史問題の読み解き方 山崎雅弘著

また、劇作家・演出家の鴻上尚史さんが「日刊SPA!」(扶桑社)というネット記事で『歴史戦と思想戦』を紹介して下さっています。読者に着目していただきたい本の中のポイントが、わかりやすく説明されています。

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「日本の悪口を言う奴は反日だ」と叫ぶ人たちが取り違えていること/鴻上尚史



このほか、近況としては、7月11日に大阪市立大学で伊地知紀子教授の授業に招かれて、「日韓関係と歴史問題の読み解き方」という講義をしました。『歴史戦と思想戦』の中で紹介したいくつかの「トリック」を実例に挙げ、言葉の使い方や「使われ方」に注意して下さいと、200人近い学生さんに話しました。

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今月の残りは、「歴史群像」誌次号の担当記事「オランダ・ベルギーの第二次大戦」の執筆と、次に出る文庫本の執筆に没頭します。


【追記】

明日は、第25回参議院議員通常選挙の投票日です。過去にネット媒体や新聞に寄せた原稿をいくつかご紹介しますので、投票行動の参考にしてください。

《1》首相が「どの論点を避けているか」にも目を向けてみる(ポリタス、2014年)

《2》日本社会が「ウソの氾濫」を許すか否かを問う選挙(ポリタス、2017年)

《3》投票所の「入り口」と「出口」から見える風景(東京新聞、2014年)

 
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料理で使ったニンジンのヘタを水に浸けておいたら、葉っぱがどんどん伸びてきました。
 
 
 
 
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2019年7月5日 [その他(戦史研究関係)]

先月に続いて、今月も新刊の告知から。6月25日に、単行本『沈黙の子どもたち』が晶文社より発売されました。

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この本のテーマは、第二次世界大戦期における、軍(またはそれに準ずる組織)による市民の大量殺害です。実質的に同大戦の前哨戦であったスペイン内戦と日中戦争も含み、ゲルニカ、上海・南京、アウシュヴィッツ、シンガポール、リディツェ、沖縄、広島・長崎の計七章と最終章(戦後の反省)から成ります。

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上に挙げた地名の多くは、歴史的によく知られていると思いますが、本書はそれらの場所での市民の大量殺害がなぜ起きたか、その原因と構造を「実行した側の『合理性』」から読み解こうとする試みです。それに加えて、個々の大量殺害を引き起こす直接的な動機となった「命令への絶対服従」という組織内の規範について、戦後のドイツと日本が違った対処法をしている事実についても終章で光を当てています。

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ドイツ連邦軍は過去の反省から「命令への絶対服従」に留保を付けた。では日本は? 大日本帝国時代の反省は制度に存在するか? 戦争という怪物の実相を理解する一助として、本書を活用していただければ幸いです。

その2日後の6月27日付毎日新聞夕刊に、先日上京した際に受けた『歴史戦と思想戦』(集英社新書)の著者インタビューが掲載されました。ネット版もありますが、会員限定のようです。記事のタイトルには「出版文化の健全さに訴え 『歴史戦と思想戦』で修正主義に一石」とあります。

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聞き手の栗原俊雄さんは、毎日新聞記者であるのと同時に『特攻 戦争と日本人』などの著作を持つ昭和史の研究家でもあり、同い年ということもあって様々な歴史上の論点について意見交換できました。

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7月1日発売の雑誌「ZAITEN」(財界展望新社)にも、『歴史戦と思想戦』を主題とする2ページの著者インタビュー記事が掲載されています。

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内容は、同書の執筆動機や、いわゆる「歴史修正主義」の思考形態をどう理解し、どのように対処すべきか等で、見城徹氏と幻冬舎、百田尚樹氏を扱った巻頭特集の内容ともリンクしています。

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雑誌「週刊金曜日」の6月14日号には、「新時代という虚構」という企画の第三回として「消えた『ニュースと政治プロパガンダの境界』」という2ページの記事を寄稿しました。

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特定の政治権力者による「宣伝(プロパガンダ)」にすぎない内容を、「ニュース」という体裁をとって国民の耳目に触れさせる手法が、最近の日本で増えているように思います。

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また、今日(7月5日)の朝日新聞朝刊にも、先日自宅で受けたインタビューの内容が「耕論」という企画の中で掲載されました。

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昨今の日本(および世界)で広がりつつある権威主義についての話がメインですが、国会議員だけでなく市民もそれと自覚しないまま、服従的な思考形態に適応しつつあるのは危険な兆候だと思います。

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私はいつも著作やSNSで権威主義を批判しているので、あらゆる権威を否定する「反権威主義者」のように思われているかもしれませんが、各分野の権威には一定の敬意を払っています。私が危ないと思うのは、特定権威の過剰な称揚と判断停止、権威を道具にした威圧や恫喝、権威への無条件服従などの心理です。



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この単行本発売に前後して、私は一週間ほどアメリカに滞在していました。今回は、昨年に続いてアリゾナ州テンピで開催されたボードゲームのコンベンション「コンシムワールド・エクスポ2019」に参加し、米国コンパス・ゲームズ社から発売予定の新作ゲーム『For Motherland !』のプレイテストを会場で行いました。

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テストを担当してくれたアメリカ人ゲーマーの1人は、旧版の『War for the Motherland』をプレイした経験もあるベテランで、共通する基本システムをすでに理解されていたので、英語でルール等を説明する際の負担がだいぶ軽減されました。

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ナポレオニック・ゲームの伝説的デザイナーであるケヴィン・ザッカー氏とも久しぶりに再会(20年くらい?)。私は前に、彼のゲーム出版社(OSG: Operational Studies Group)のためにグラフィックの仕事を何度かしたことがあり、シミュレーション・ゲーム業界における彼の功績を深く尊敬しています。

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また、アリゾナへの行きと帰りにサンフランシスコに立ち寄り、いくつかの場所を見学しました。

サンフランシスコ市内にあるオペラハウスの建物。朝鮮戦争が二年目に入った1951年9月8日、日本と主要連合国の間で先の戦争の講和条約(通称サンフランシスコ講和条約)が署名されました。この日はオペラの上演日だったので内部は見られませんでしたが、脇の車寄せから入る着飾った人々の姿から当時の光景を想像しました。

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オペラハウスからタクシーで15分くらいの場所にある、米陸軍プレシディオ基地内のゴールデン・ゲート・クラブの建物。ここは昔「下士官クラブ」として使われ、サンフランシスコ講和条約締結後に吉田茂首相が米政府代表者との間で最初の「日米安保条約」に署名した場所です。こんな小さい施設で署名したのかと改めて驚かされました。ここが戦後の日米軍事同盟の出発点です。

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サンフランシスコの名所、ゴールデン・ゲート・ブリッジ(金門橋)。出発前日に映画「007 美しき獲物たち」をBSで観て、ゾリンの飛行船が衝突した橋の上部を見るのを楽しみにしていたのですが、残念なことに同地名物の霧で上半分が隠されていました。たもとには橋の設計者ジョセフ・ストラウスの像が立ちます。遠くからだとわかりにくいですが、実はニューヨークのクライスラービルなどと同様、アールデコの装飾が橋のあちこちに施されています。

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さて、今日(7月5日)は雑誌「歴史群像」最新号の発売日です。今回は、本誌記事「ドニエプル攻防戦 1943」の執筆に加え、付録ボードゲーム2つのデザイン・制作・グラフィックを担当しました。プレイを通じて指揮官の決断を重さを体感できる、2人用(第二段作戦)と1人用(マレー沖海戦)のボードゲームが、打ち抜き駒と共にパッケージされています。これらについては、次回の投稿で詳しく書きます。

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アリゾナ州テンピのゲームコンベンション「コンシムワールド・エクスポ2019」で、「第二段作戦」をプレイする、アメリカ人のベテランゲーマー2人。

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